
タームの半分以上に及ぶ長期休暇も残すところ一週間となり、寮やケンブリッジの街に学生が戻り始め、いつもの活気が戻ってきたように感じられます。
ここからは、主に授業内容とSupervisionの構成について、少しお話しさせていただきたいと思います。経済学部は、マクロ経済学、ミクロ経済学、数学・統計学、そしてイギリス政治・歴史の五つのペーパーで構成されており、いずれも必修科目です。そして、1週間にそれぞれ2から3つのレクチャーがあります。Supervisionは、Supervisor1人と学生2、3人で1時間ほど行われる少人数形式の指導で、提出課題や関連トピックについて議論を行う場となっています。
今学期のマクロ経済学、ミクロ経済学、数学・統計学の3つのペーパーでは、エッセイ課題はなく、授業内容に基づいた練習問題を2週間に1度のペースで提出しました。Supervisionでは、その解答の確認に加え、課題に関連した追加問題が出され、それらをもとに議論を行いました。これらの科目はいずれも数学的要素が強く、ミクロ・マクロ経済学においても、グラフやデータに基づいた、答えの明確な問題が中心でした。内生要因と外生要因を区別しながら仮説を整理するといった、まさにOrthodoxな経済学を学んでいるという印象を受けました。
政治、歴史の2つのペーパーでは、それぞれ4本ずつエッセイ課題がありました。歴史のペーパーでは、タームを通してイギリス産業革命を中心テーマとして扱いました。高校では、歴史の授業で半年にわたって産業革命について学んでいたため、その時代の歴史的観点など、比較的入り込みやすい課題ではありました。毎回のエッセイの課題図書を通じて、産業革命という転換期への歴史学者ごとの様々な見解に触れることができました。なぜイギリスで、そしてなぜその時代に産業革命が起こったのかという問いをもとに、農業革命、人口増加、政治体制、金融機関、貿易など、当時のさまざまな要因と経済成長との関係を考察する内容でした。レクチャーの進行については担当する教授にもよると思いますが、関連図書を十分に理解しないまま授業に出席すると、コンテクストに触れられないまま進んでしまい、理解が伴わない場合が多い印象を受けました。
政治のペーパーでは、戦後約80年にわたるイギリス政治を扱い、イギリス政治において合意(consensus)は存在したのか、イデオロギーと実際に行われた政策との間にはどのような差異があったのかといった点について考察しました。最終エッセイでは、戦後から2008年のリーマン・ショック、Brexit、コロナ、ロシアによるウクライナ侵攻、リズ・トラス政権に至るまで、継続的に起こったショックが、イギリスの政治および経済にどのような影響を及ぼしたのかを総合的に分析しました。
このタームでは、特にエッセイの作成に多くの時間を割いたように思います。学部レベルのエッセイでは、自らの持論を展開することよりも、課題図書における歴史学者の解釈を正確に理解し、それらを比較・分析した上で、2000字近くのエッセイとしてどのように論理的に構成するかが求められていました。自分の頭の中にある思考のプロセスを、いかに読み手に分かりやすく伝えられるかという点を強く意識するようになり、文章構成について多くを学んだタームでした。同じコースの友人と一行ずつエッセイを読み合い、ああでもないこうでもないと推敲を重ねる時間は、非常に楽しいものでした。
効率的とは言えない進め方をしてしまうこともあり、一度課題図書を読み終えて構成を考えた後に、読み取りが不十分であったことに気づき、再度読み直すこともございました。その分、それぞれの文献同士のつながりを深く考えることができ、すべてのフィードバックにおいて、課題図書の理解について言及していただけたことは努力が報われた気持ちでした。時間のかかる作業ではありましたが、非常に没頭できる経験でもあり、その分野のエキスパートの方から自分のエッセイのフィードバックをいただける、本当に恵まれた環境にいると実感しました。
三つのペーパーで経済理論と数学的手法を学び、残りの二つのペーパーで、それらの理論が現実世界でどのように実践され、どのような効果をもたらしてきたのかを文献とエッセイを通して分析するというカリキュラムは、自分の学びたい分野を幅広くカバーできていると感じています。
また、ケンブリッジでは多くの講演会が開催されており、特に印象に残っているのは、今年度のノーベル経済学賞を受賞されたフィリップ・アギヨン氏による、毎年恒例のMarshall Lectureでした。イノベーションによる経済成長をテーマとした講演は大変興味深く、今学習しているイギリス産業革命の考察とのつながりも感じられました。ほかにも、heterodoxと呼ばれる経済学の講義にもいくつか参加しました。経済をontologyの視点から捉える哲学的な内容や、個人主義や資本主義と、アメリカで社会現象となったprosperity gospelとの関係性を考えるものなど、多様な研究テーマに触れる中で、経済学の幅広さを改めて実感しました。
さらに、ケンブリッジではSocietyの活動も非常に活発です。フレッシャーズフェアで勧められるままSocietyのメールリストに登録したところ、毎日のようにイベントの案内が届きました。編み物、コンサルティング関連、ダンス、フルートアンサンブル、映画、ヨガなどに参加してみたものの、慌ただしいターム中では継続的な参加が難しく、単発で終わってしまったものが多かったです。来学期はSocietyを絞り、そこでの交流も大切にしていきたいと考えております。
パブリックスクールに在籍していた際は、ほとんどの生徒が私よりも長くイギリスで生活しておりましたが、大学では世界各国から学生が集まり、教授陣もさまざまなアクセントを持っています。イギリスに来たばかりの留学生の方から、以前は日本について質問されることが多かったのに対し、最近ではイギリスについて尋ねられることも増え、自分がこの国で三年目を迎えているのだと実感する場面が多くなりました。
自分の好きな文学や課題について話せる友人が身近におり、これまで評価されてこなかった部分にも目を向けてもらえる環境に、個人的には非常に居場所を見つけやすいと感じております。一方で、すべてが自由参加で、個人で過ごすことも全く不自由のない環境であるからこそ、その居心地の良さに安住してしまうことも、良くも悪くもあると感じています。多くの選択肢が与えられている中で、情報を得て、その選択肢の存在に気づくことの重要性を強く実感しました。生活や勉強のリズムもつかめてきた来学期は、時間を見つけて、もう少し活動範囲を広げていきたいと考えています。
最後になりましたが、このような有意義な生活をご支援のもと送ることができていることに、心より感謝申し上げます。