
あっという間に、ケンブリッジ大学での最初の一年が終了してしまいました。ケンブリッジ大学の学部課程は3年しかなく、すでにその3分の1が終了したことを思うと、これからの1分1秒も無駄にできないと背筋が伸びる思いです。今回のレポートでは、ケンブリッジ大学で1年間生活をして感じたことを綴ろうと思います。
今年は、ケンブリッジでの生活の難しさを痛感させられる一年となりました。難しさを感じた要因としては、濃密なコース内容、ケンブリッジという街の特性、そしてイギリスの大学のなかでも特に長い休暇期間の3つが挙げられます。本レポートでは、それぞれについて書かせていただきたいと思います。
まず、ケンブリッジでのコースについてですが、私は今年度、自然科学専攻で数学、化学、材料科学、物理の4科目を履修しました。後述しますが、ケンブリッジの1学期は8週間と極めて短く、それゆえに授業のスピードが非常に速いです。各分野から毎週のように大量のSupervision problems(チュートリアル用の演習課題)が課され、それらと向き合いながら、長時間の実験に追われる日々でした。そうした学業と自分のやりたいこととをどのように両立していくべきか、結局のところ答えが出ないままでした。休み期間中に授業の内容を先取りして学期中の負担を減らそうとしたり、翌日に良いパフォーマンスを発揮できるギリギリの睡眠時間を模索したりと様々な方法を試してはみたものの、いまだに学期を通して満足のいく生活を送れたという実感はありません。
また、AIとの付き合い方もいまだに模索している部分です。現状として、Supervision problemsはAIに問題をそのまま投げるだけで概ね正しい答えが返ってきてしまいます。そのため、自力で課題を解く過程をほとんどスキップしている学生も少なくありません。私自身も、わからない問題をAIに投げては「もう少し自分で考えればよかった」と後悔することもあれば、解説を読んでも全く理解できず、AIと問答を繰り返すことでようやく理解を深められたこともあり、結果は様々です。個人的には、理系科目の勉強において答えを見ること自体は決して悪いことではないと考えています。問題を解くための発想は、それまでに習得した問題解決手法の引き出しがあってこそ培われるものだと思うため、答えを見て自分の中の解法のサンプルを増やすことは重要だからです。ただ、単なる時短のためにAIを用いることと、答えを見て学ぶことの境界線は曖昧になりがちです。そのため、常に目的を意識してAIを活用していく姿勢が求められると感じました。
ケンブリッジという街の特性も、この一年を難しくした要因の一つでした。ケンブリッジはイギリスの中では中規模であり、学生や大学関係者が多く住む典型的な学生都市です。そして大きな特徴として、街が非常にコンパクトであることが挙げられます。一見すると利点に思えるこの特徴は、授業や実験を行う施設と生活圏が極めて近いことを意味します。その結果、街のどこを歩いていても学業のことが脳裏をよぎり、リフレッシュする機会を失いがちになってしまうのです。初めてケンブリッジに来た時に圧倒された伝統的な建物や図書館を見ても、「ああ、みんなこの中で勉強しているんだな。自分も頑張らなくては」と焦りを感じてしまい、以前のように純粋な気持ちで感動できなくなっている自分に落胆することもありました。
また、ケンブリッジで学生生活を送っていると、独特の閉塞感を覚えます。「ケンブリッジ駅が中心街から大きく外れた場所にあるのは、学生がすぐにロンドンへ遊びに行けないようにするためだ」というのは有名な話ですが、実際に日常生活のあらゆる要素がケンブリッジの中で完結してしまうため、まるでこの街に閉じ込められているかのような息苦しさを感じることがあるのです(もちろん、学問に専念するという点においては時間のロスが少なく、これ以上ないほど恵まれた環境だとは思います)。少し不満を並べてしまいましたが、雪上がりの街を散歩しながら見る風景や、季節の移り変わりを肌で感じられる道や公園を自転車で走っていると、やはりこの街に住むことができてよかったと心から思います。
前述の通り、ケンブリッジは1学期が8週間しかないため、年間の休暇期間が合計で約半年に及びます。この期間をどう活用するかが、ケンブリッジでの学生生活を大きく左右します。普段の学業とは打って変わって、自分のやりたいことにすべての時間を費やせるとなると、かえって選択のパラドックスに陥ってしまいました。今年度は、大学生活で新たに趣味となった料理を楽しんだり、日本からは行きにくい国へ旅行をしたりして過ごしました。しかし、休みの間にインターンや研究に没頭している友人たちを見ていると、焦燥感に駆られるのも事実です。来年からは、将来の自分の姿や自分の原点についてじっくりと考え、目標に近づいていけるような選択をしていきたいと思います。
このようにケンブリッジ大学の魅力や難しさを肌で感じながら充実した日々を送ることができているのも、支えてくれた友人や家族、そして何よりこの留学の機会をくださったTazaki財団の皆様のおかげです。残されたイギリスでの時間も一分一秒を無駄にすることなく大切に歩んでいきたいと思います。