お知らせ

Kさん(Imperial College London, Biochemistry / Christ's Hospital出身)

一年目もあっという間に終わり、今回は二学期と三学期を中心に、この一年の後半に経験したことについて書きたいと思います。

二学期からは、Enzymes and Metabolism とMolecular Biology という二つのモジュールを中心に勉強しました。Biochemistryを勉強しているというと、結局、何を勉強しているのかと聞かれることがあります。名前の通り生物学と化学の両方を扱う学問ですが、単に二つを別々に勉強するというより、生命現象を分子レベルから化学的に理解するというのが近いと思います。

例えばMolecular Biology では、細菌の感染や遺伝子の移動など、生命現象を比較的大きな視点から学ぶ一方、Enzymes and Metabolism では、そのような現象の中で実際に何が起こっているのかを、酵素、タンパク質、アミノ酸、化学反応のレベルまで掘り下げていきます。

例えばlysozymeは細菌の細胞壁を構成するNAGやNAMの結合に作用する酵素ですが、単に「lysozyme は細菌を壊す」と覚えるだけではなく、どのような化学構造を認識し、どのアミノ酸側鎖が基質と相互作用し、どのように反応が進むのかまで考えます。化学構造を使って反応機構を考えるだけでなく、PyMOL(分子構造を3Dで可視化するソフトウェア)を使ってタンパク質の三次元構造を実際に見ることで、教科書上の構造式だけでは分かりにくかった分子同士の位置関係や相互作用を視覚的に理解することもできます。生命現象は化学反応の積み重ねではありますが、同時に「どこに何があるか」という物理的な位置関係も重要で、三次元で見ることで初めて納得できることもあります。

Biochemistry では、最初は非常に複雑に見える反応経路を覚えなければならないことも多くあります。しかし、より細かいレベルまで勉強していくと、それぞれの反応に理由があり、最初はばらばらに見えていた知識が少しずつつながっていきます。全体だけを見ていると「なぜこのような複雑な経路になっているのか、誰かが勝手に作り上げたんじゃないか」と思うことでも、分子レベルまで掘り下げることで、一つ一つの反応がどのようにつながっているのかが分かるようになる、というか、無理やり説明がついてしまい、本当にこんなことが可能なのかと思うことも多々あります。そんな奇跡的で、偶然のようにも思えるようなことが我々の体内で起きていることに、余裕があるときは感動しながら、試験前はただ無心にそれらを暗記しながら、ひそかに全動物が単細胞生物だったらいいのにと願う日々です。ですが、このように覚えていた知識が実際のmechanismとして理解できるようになることは、Biochemistryを学ぶ中で面白いと感じる部分の一つです。

もちろん講義だけでなく、ラボやワークショップも多く、様々な実験を行います。Biochemical lab では、ピペットを使って試料を調製し、吸光度を測定して酵素反応や濃度を調べるといった実験が多く、Biochemistry をやっている以上こういうものなのだと思いつつ、同じような作業が続くと少し飽きてしまうこともあります。後半にはDNAを扱う実験もあり、電気泳動を用いてDNAを分離しました。実際に結果を確認すると、講義で扱っていたDNAが急に具体的なものとして感じられ、やはり自分で実験してみることで理解できることも多いと感じました。

学業面では、二学期と三学期は講義、ラボ、課題、試験勉強を並行して進める必要があり、常に何かの締切に追われているような感覚がありました。特に、講義を受けた後に十分復習する前に次の講義が始まり、試験前にまとめて追いつこうとすることも多くありました。そもそも一時間の講義を理解して復習するのに四時間ほどかかることもあり、暗記にかかる時間まで考えると、すべてをその場で消化するのはなかなか難しかったように思います。もちろん、もう少し効率よく理解できるようになればよいのですが、そこは自分の処理速度の問題でもあるので、一年で急に変えられるものでもないとも感じています。それでも一年間を振り返ると、もう少し早い段階から計画的に復習や課題に取り組むことはできたと思います。二年目は、目の前の締切を終わらせることだけで精一杯にならないよう、学習にかかる時間もある程度見積もった上で、もう少し余裕を持って取り組めるようにしたいです。

また、最近は授業で扱った内容からさらに興味のある分野を探すため、少しずつ研究論文を読むようになりました。その中でも現在特に興味を持っているのが、抗菌薬耐性(Antimicrobial Resistance; AMR)や感染症に対する新しい治療法です。

私が感染症やneglected diseases に関心を持つようになったのは、大学に入学してからというより、財団に応募する以前からの問題意識によるものです。特に、低資源地域でも実装可能な、accessibility と scalability を備えた医療技術に関心があります。最先端の技術を開発することだけでなく、ポータブルで、必要な設備や人材への依存が少なく、実際により多くの人へ届けられる医療を考えていきたいと思っています。

そのような問題意識を持ったままBiochemistryを学んできたことで、以前よりも感染症という問題を具体的に考えられるようになったと感じます。例えばAMRについても、単に「抗生物質が効かなくなる」という問題ではなく、細菌がどのような分子メカニズムによって薬剤に耐性を持つのか、それに対してどのような方法で対抗できるのかを考える必要があります。現在はまだ論文を読んでいる段階ですが、研究者が既に知られているmechanismをもとに新しい仮説を立て、実験によって検証していく過程には強く興味を持っています。

一年目の後半を通して、Biochemistryについて知識が増えた一方で、まだ分かっていないことが非常に多いことも実感しました。授業では既に確立されたpathwayやmechanismを学びますが、それらももともとは誰かが疑問を持ち、実験を重ねることで明らかにされてきたものです。今までは「分かっていることを勉強する」という感覚が強かったですが、論文を読むようになってからは、その先にある「まだ分かっていないこと」にも少しずつ興味を持つようになりました。

一年目は大学の授業についていくことだけでも精一杯な部分がありましたが、その中でも自分が以前から興味を持っていた感染症や医療という分野と、大学で学んでいるBiochemistryが少しずつつながってきたことは大きな収穫でした。二年目は、より専門的な内容を学びながら、自分が具体的にどのような研究分野に興味を持っているのか、将来どのような形で科学を通して社会に貢献できるのかを考えていきたいです。