お知らせ

Hさん(University of Edinburgh, Geography / Kingswood School出身)

エディンバラの夏には日本の蒸し暑さとは一味違うものがあります。大学前の広々と開けた公園に差す直射日光には、思わず目を瞑って空を見上げたくなるような鋭さがありますが、木陰に入ってしまえばそれは遮られ、むしろ吹き抜ける冷たい風に体を縮こませてしまいます。42.195kmのエディンバラフルマラソンの行われた五月下旬のその日の温度は二十度を超える、スコットランドで言えば熱波、の暑い日でした。しかしそれでも大丈夫。コース沿いのお宅に住む方々が沿道まで出てきてくださり、お庭のホースで虹のシャワーを作ってくれたり、子供は自慢の水鉄砲で、ランナーのほてった体めがけて、完走に向けた応援の一打をくれたり。他にも、ハイタッチしてパワーアップ!とか、この先居酒屋!と書かれたお手製の段ボール看板を掲げる方がいて思わず笑みをこぼしたり、合唱している団体さんにも拍手で応えたり。さらにはゼッケン番号の下にプリントしてある名前を瞬時に読んで、あらゆるランナーに直接呼びかけ、激励してくれる人達も。本当に大勢の、名前も知らない方々に、何度も体を冷ましてもらい、そして心には火をつけてもらいました。レース中にすれ違った友達の笑顔に、沿道からのさまざまな大きさのハイタッチ、音楽に踊りに、そして遥か先まで青く続く海岸線の眺め、と、自分の踏み出す一歩一歩が常に、他の誰かに引っ張られていたのだなと振り返ります。

さて、六月中の日本の暑さというのは、身構えていたよりは案外涼しいものでしたが、ダブル台風の発生や、頻繁に起こる大地震に、この国が災害大国であることをまざまざと思い出しました。そんな台風はしかし、滞在中であった屋久島にて、森の中の澱んでいた空気を一掃してくれました。あの大粒の雨が緑濃き樹々の葉を辿り、絶え間ない雫となってふわふわの苔より滴り落ちている様子には、雨の恵みに森が潤い、生き生きとしているのが見て取れました。屋久島といえば、屋久杉や縄文杉などの豊かな植生に代表される傾向がありますが、実は1000メートル級の山の数が40を超えていたり、鎖国中の1708年にイタリア人宣教師シドッチが訪問していたりと、自然に限らず、屋久島にしかない歴史や文化がたくさんあることを知りました。ちなみにそのシドッチは江戸に連れて行かれ、新井白石の元で、世界のことや科学、天文学、宗教観について語り、それがきっかけとなって西洋学問の書物が和訳されたそうです。屋久島を訪れた人物の中には、ウィルソン株の名で知られるイギリス人植物学者のウィルソンもいますが、1914年に彼が屋久島の保全を提唱したのが始まりとなり、それまで商業的に利用され伐採の進んでいた生態系が、守られることとなりました。

こうして見てみると、一つの場所であるけれども、そこに生きた人々や、彼らと交流したあらゆる世界、文化圏、分野の人々など、全ての相互の関わり合いがあっての今の姿であることが浮き彫りになります。そしてその姿というのは自然環境のことのみではなく、命を紡ぎ続けている猿や鹿などの動物に、小さな生き物たち、さらには人間の文化や食、言語、音楽などをも含んでいます。人から人をつたって行けば、時間や場所を縦横無尽に旅しながら無数のことに辿り着くことができます。私は、人と人との間にしか生まれぬ会話や笑顔を見たいから、今日も元気に、いってまいります。

末尾ではございますが、私の汗と笑顔まみれの、スポーツ・音楽・行事漬けの毎日を支えてくださる財団の方々に深い感謝を申し上げます。これからも、世界の現状や周りの人々の行動に敏感になりながら、自分の持っている特技や好きなことを最大限に活かし、そしてより多くの人とのご縁に恵まれるよう、日々勉学、スポーツ、芸術に勤しんで参ります。どうぞお見守りください。