お知らせ

Yさん(University College of London , Philosophy and History of Art / Chirist's Hospital出身)

あまりにも長く、そしてあまりにも暑かったイギリス3度目の夏もそろそろ終わりに近づいています。夜10時ごろまで明るかったはずの空は20時現在夕焼けに染まり、SNSにもクリスマスの投稿が流れてくるようになりました。「人生の夏休み」ももう既に3分の2が過ぎてしまったというのに、あと一年で大学を、財団生を卒業する実感はとんと湧きません。来たる秋は私の一番好きな季節なのですが、こう到来を間近にすると、楽しみなような、逃げ出したくなるような、なんだか不思議な衝動に駆られます。そんなふわつきを前に、今年度1年間で降り積もった事柄を、今回のレポートを機に固められたらなと思います。

「大学2年生が一番忙しくなるよ」との噂は本当で、大学では学業・サークル・友人関係どれも大変充実した一年となりました。去年から引き続き、授業は哲学から半分、美術史から半分、そして今年度から新しく第二外国語としてフランス語を始めました。自分でも「大成功だな」と思う単位選択です。特に面白かったものを(勝手に日本語訳して)紹介しますね。

<身体の創造 - 中世から近世にかけて>
人間の身体とは何なのか、それが立体作品として表現されたときに一体何が生まれるのか、というふたつの大きな質問を、材料・素材という切り口から紐解いていく授業です。木や石を削って姿を顕す彫刻と、泥を重ねて形を造る塑造、そして炎を吹き込む彫金。各々の手法にそれぞれの意味があり、象徴があり、選択があり、それが素材一つ一つ、題材一つ一つが持つ意味、象徴、選択と掛け合わさって、その作品にとっての必然になっていく。この過程はまるで解のある問題を、思ってもみなかった、だけどお気に入りの方法で解いていくような、とても久々で爽快感のあるもので、私はすっかり夢中になってしまいました。身体という古今東西使われてきた題材だからこそ、学ぶこと全てが授業の枠を超えて広がり、私の中で彫刻を、絵を、人を、自分を、みる目が一段階アップデートされたような気がします。

期末課題も何とも素敵で、おかげで一学期目はVictoria & Albert Museumのルネサンスコーナーに通い詰めることができました。まだまだV&A のコンプリートへの道のりは遠いですが、入って右手のエリアは多少の自信がつきました。「一年一美術館」は去年から個人的に掲げていた目標だったので、その意味でも、この科目に出会えてよかったなと思っています。


<「美術」史> & <美学>
片方は美術史科、もう片方は哲学科と、組織上はまるで違う2教科(美術史は社会科学部、哲学は芸術・人文学部)だったのですが、蓋を開けてみればびっくり、扱う文献がほぼ同じ。ある週は事前課題のリーディングが丸ごと同じで、浮いた時間で積読を消化することができました。

ここまでだけを聞くとまるで文句を言っているようですね。しかしそんなことは全く以ってなく、正直このまま大学を卒業してしまえて良いのか、と悩んでいた私にとっては、そしてそもそも美学がやりたくてダブルディグリーを選んだ私にとっては、かつてなく「自分に合った」選択になりました。一つの文献を、理論をときほぐしながら読む経験と、現実世界にある絵画のレンズを通して、もしくは当てはめて読む経験。一つの絶対的に変わらない文章を、二つの違う角度から同時にアプローチした、そしてそれを同じ教科選択をした人と共有することができたことで紙の上の(もっと正確にいうならスクリーン上の)、何次元でもない思考がどんどん広がりながら深まっていきました。考えることを純粋に愉しめたのはどうにも久しぶりのような気がして、それはとても自由で、そしてちょっとだけお得で。どうやったら大学を、教育機関を抜け出して、考え、遊び、楽しみ続けられるのかを学べただけで、私の大学生活は実りのあるものだったなと感じています。

学業の外側では、昨年のレポートでも軽く触れたJapan Societyにて精力的に活動を行いました。600人を超えるサークルの会長として、全体の方向性をまとめたり、他大学とのコラボイベントを企画したり、スポンサーシップ交渉をしたり。関わる人数も多ければ、責任を持たなければならない数字も大きく、何かのまとめ役になることも久々で、てんやわんやのリーダーになってしまいましたが、周りの人たちに助けられ、何とか駆け抜けることができました。年度末にはUCLにある全455サークル中トップ8にも選んでいただき、1年間の積み重ねが報われたようでほっといたしました。

またこの役職をきっかけに、これまであまり考えていなかった、はっきりとした輪郭を持たせることを拒否していた恐ろしい2文字
「将来」
にぶつかってきました。


巷では大学3年生で就活が本格化すると聞きましたが、悲しむべきか喜ぶべきか私の学科は三年制。大学2年生が山場です。様々な意見はあると思いますが、私にとっては自分とじっくり対話する、そして社会、自分の外側から相対的にみた小さな自分を再発見し、その小さな私は何になりたいのかを問い始める良い機会となりました。まだ答えは見つかっていません。夏までに見つけると言い続け、夏が終わってしまいました。でもやっぱり、この答え探しの旅は、暑い夏よりも鬱々とした季節の方が似合うような気がします。

移りゆく社会の中で、自分の根を、葉を伸ばしていけるのは自分だけ。図らずも最初のレポートのMobilis in Mobiliに戻ってきてしまいました。動き続ける、考え続ける、見つけ続ける、直し続ける。初志貫徹しないことを四年が経った今でも続けられているのは、変わり続けることのできる環境と、その環境を与え、作り、保ち続けくださっている皆様のおかげです。いつもありがとうございます。感謝を新たに、残りの時間を使って何を変えることができるのか。来年のレポートには自信満々で答えを綴れるように、外側にも内側にも、手を伸ばし続ける一年にしていきたいです。