お知らせ

Aさん(University of Cambridge , Natural Science / Kingswood School出身)

進路について
2年生になって専門的な物理学を学んで物理学の面白さを一層感じた。特に、数学と物理学の結びつきの美しさを強く感じ、博士課程に進学して理論物理学を研究したいという気持ちが強くなった。具体的な研究分野や博士課程後の進路についてはまだ決めてはいないが、民間にしろ学術界にしろ、技術革新に貢献できるような分野の理論を開拓したいと思っている。そこで、将来の研究の予行練習をするため、また、博士課程への出願や就職活動を見据えて経験を積むため、この夏は研究インターンに取り組んだ。

インターン
具体的には、UROPという学内の研究インターンのプログラムの1つに応募し、8週間機械学習を使って銀河の画像を分析する研究をした。期間中は、週に2回ポスドクの指導教員の方と進捗を共有した。私の拙いアイデアに対し、先行研究を示してブラッシュアップしてくださるなど、親身に指導してくださった。将来はこの人のような研究者になりたいと思った。

今回のインターンでは主に3つの成果が得られた。それは、研究者の生活の実態を垣間見られたこと、研究の予行練習ができたこと、そして、機械学習についての見識が深まったことである。

研究者の生活の実態について、グループミーティングやその週に公開された論文を研究室のメンバーで批評するジャーナルクラブなど、研究室での生活のリズムが分かった。また、インターン先の研究室のメンバーは皆心底楽しそうに研究しており、研究室自体も暖かい雰囲気だった。

研究の予行練習について、特に論文による情報収集への解像度が上がったことが大きな収穫だったと思う。この作業は、研究の現場では非常に重要であるにも関わらず、学部の勉強ではあまり体験してこなかったからだ。インターンに参加してまず驚いたことは、予想していたよりも論文を読む作業の比重が高かったことである。たとえば、1週間丸々論文を読むことだけに費やした週もあった。最初の方は時間配分に苦労したが、8週間を通して、論文探索による情報収集と、自分のアイデアの実装のバランスが掴めてきたと感じる。何よりも、研究分野についての事前知識がほとんどないところから、頭の中にその分野の地図を作り上げる過程を体験できたことで、将来新たな分野の研究を始めるときの心構えができた。

機械学習について、それぞれの機械学習モデルの特徴や、機械学習と物理学の深いつながりへの理解が深まった。実際に様々な機械学習モデルについて調べ、実装することで、それぞれのモデルの特徴や向いているタスクが分かった。たとえば、あるデータ分析のタスクで、予測精度のそこまで高くない単純なモデルを最初に試して、その後に複雑で高精度なモデルを使用したことがあった。これは、最初に単純なモデルを試すことで、データのどの要素が他の要素と比べて重要か、当たりをつけるためである。単純だからこそ、結果の解釈が容易なのだ。機械学習と物理学のつながりについて、たとえば機械学習のアルゴリズムに物理学由来のエントロピーの概念が使われているなど、物理学と機械学習の間の強い親和性を感じた。機械学習への応用などから、基礎学問としての物理学の汎用性を再確認できた。また、機械学習の基礎である情報理論と物理学の繋がりに興味が湧いた。特に量子情報などは現在非常にホットなトピックなので、注視していきたい。

インターンについての報告の最後に、UROPについて補足しておく。UROPをはじめとした研究インターンは、積極的に情報を集め行動している人が採用されている印象を受けた。たとえば、私は既に公開されているプログラムに応募したが、友人の中にはクリスマス休暇などまだプログラムが公開される前の時期に、教授に直接メールを送ってインターンの機会を獲得している人もいた。また、UROP自体はイギリス全土の大学で共通の枠組みなので、他の大学のプログラムにも自由に応募できる。Tazaki財団生の後輩や未来のTazaki財団生で研究に興味のある人は、ぜひこの機会にUROPについて調べてみてほしい。

生成AIの利用について
この1年は生成AIの進化を印象づけられた1年だった。私がSixth form生だった頃の生成AIは基礎的な計算問題にも正答できなかったが、今では学部の期末試験にも正答できるようになった。しかも、試験問題の誤りも見抜けるまでに進化した。特に、研究インターンでは複雑なプログラムの実装で何度も助けられた。

このように1年を通して生成AIの効果的な利用法について考えてきたことをまとめてみたい。私が画期的だと感じたのが、性質の違う生成AIを組み合わせることだ。異なる生成AIを組み合わせることで、誤った出力のリスクを抑えつつ作業を効率化できるのだ。実際に、夏のインターンでは、関心のある学問分野における重要な論文をChat GPTに挙げさせ、それらをNotebook LMに要約させた。そして、研究手法の詳細が気になったときに論文の本文を読むようにした。ここで、Notebook LMとは、ChatGPTなどの一般的な生成AIと異なり、事前にアップロードした情報源のみを参考にして回答を生成するAIサービスだ。これにより、Notebook LMは誤情報を生成するリスクが比較的低くなっているそうだ。この組み合わせによって、自分の研究に関連する論文の検索と読み込みが高速化できた。また、私の周りには、プログラミングの際、1つのAIにコードを生成させ、そのコードをもう1つのAIに検証させている人もいた。その人によると、生成AIにもそれぞれ癖というものがあり、2つのAIに互いに評価させることで、その癖による見逃しを防げるそうだ。これからも、生成AIと上手に付き合う方法を模索していきたい。

思考特性について
私が大学に入学してから2年間ずっと考えてきたのが、思考特性とその多様性だ。
Cambridge大学に入学してから、同じ物理学科の学生であっても、私とは思考パターンが大きく異なるであろう人たちと出会ってきた。私は大学入学前まで、同じ内容を勉強しているときは他の人も自分と同じように思考していると考えていたため、衝撃を受けた。私の学んでいる物理学では、図や数式を使って状況を整理する。そして、私は数式をふんだんに使い、厳密に議論を進めるスタイルだ。それに対し、少なくない友人が大雑把な直観を図に落とし込み、最小限の数式で答えを導いていた。私のアプローチの方が正確性は高い一方、図形的に考える友人の方が最初のとっかかりを見出す能力に秀でているように感じた。月並みかもしれないが、自分と異なる思考特性を持つ人と積極的に議論することで物理学の理解が深まるのではないか。何よりも、自分と思考のスタイルが違う人を理解できないとして遠ざけるのではなく、相手の思考特性を知ろうとすることで、より多くの学びが得られるのではないだろうか。

サッカー観戦
サッカー(こちらではフットボール)のワールドカップイヤーだった今年は、普段はあまり接する機会のない人ともサッカーを通じて交流することができた。まずはイースター休暇、Cambridgeの日本人の友人たちと日本とイングランドの親善試合をLondonのWembly Stadiumで観戦した。興味深かったのは、途中から場内を紙飛行機が飛んでいたことだ。どうやら、イギリスでは応援しているチームのパフォーマンスが芳しくないと紙飛行機を場内に投げ入れる文化があるらしい。ちょっとした皮肉が効いていて、いかにもイギリス人らしいと感じた。また、Cambridgeへの帰宅の道すがら、Cambridge大学博士課程の日本人の方から研究室生活の話を聞くことができた。このように、Cambridgeの日本人コミュニティはアカデミア志望の人も多く、いつも貴重な情報を受け取れている。自分も高学年になっていくので、後輩たちに有用な情報を伝えていきたい。そして、何よりも盛り上がったのがワールドカップだ。ちょうど夏休みに入っていたこともあり、準々決勝のイングランド対ノルウェー戦ではカレッジのバーで皆が一丸となって応援していた。特に、点を決めたとき、ピンチを切り抜けたときに拍手が印象的だった。私自身も学期中あまり話す機会のなかったイギリス人の同期と距離を縮めることができた。

夏の猛暑
この夏は私がイギリスで過ごした3回の中で最も暑い夏となった。特に、6月の試験期間は連日真夏日や猛暑日となった。この猛暑が試験勉強に影を落とした。イギリスの住宅は酷暑を想定された作りになっていないため、気温の数字以上に暑さを感じたのだ。たとえば、エアコンの付いている住宅は知る限り皆無であるうえに、長い冬を乗り切るために少しでも熱を溜め込むように住宅が設計されている。特に、私の部屋は建物の最上階にあるため、下の階よりも暑くなりがちだった。普段私は図書館やカフェではなく、自分の部屋で勉強するタイプだ。しかし、自分の部屋の異常な暑さ故に、他の勉強場所を探すことを余儀なくされた。具体的には、遮熱性の高い寮のコモンルームで勉強したほか、エアコンの効いているスーパーで涼をとった。他にも暑さ対策をまとめてみたので、後輩の皆さんには参考にしてもらいたい。まず、友人から貰い受けた冷風扇を常時稼働させた。特に、東京とは違って夜は気温が下がることが多いので、日が暮れたら窓を開けて冷風扇で外気を取り込んだ。また、日光による部屋の加熱を防ぐため、一日中カーテンを閉め切って生活していた。最も、これは精神衛生を鑑みて行うべきだろう。最後に、夏バテ防止のために、消化に良い料理や夏野菜を使った料理を多く料理した。

留学生活も後半に入り、今年は学業面でも生活面でも今まで以上に活動範囲を広げることができたと思う。来年はもっと広い世界を見られることを想像すると、今から楽しみだ。最後に、このような留学の機会を与えてくださった、田崎さんをはじめとするTazaki財団の方々に感謝をして締めくくりたい。