ケンブリッジでの1年間で私が最も多くの学びを得たのは講義でもスーパービジョンでもなく図書館からだった。実際、私のカレッジにNatural Sciencesを専攻する学生は1学年20人ほどいるが、おそらく私が1番多くの教科書を借りたと思う。前提として、私の学科には日本のような指定教科書というものはなく、講義では最低限の情報が載った講義ノートが配られるのみだった。そのため、理解を深めるためには自分で教科書を借りることになるのだが、カレッジの図書館にはそれに必要な本が揃っていた。書棚を眺めるとノーベル賞受賞者の著書や50年以上前に出版された書籍など、勉強意欲を掻き立てる本がいくつも並んでいた。
私の勉強スタイルとしては、試験勉強やレポート課題のためにある分野についての教科書を10冊ほど借りてその中から自分に合ったものを選ぶというものだった。同じ分野でも著者によって全く異なる構成になっており、それぞれ読み比べることで理解の奥行きが広がってゆくのが感じられた。いつも最後には課題そっちのけで本に没頭したものだ。しまいには図書館の物理の書棚のどこにどの本が置いてあるかまで把握するようになった。夕方のほの暗い図書館では他のことは全て忘れられて、まさに勉強中毒になるのに打ってつけの環境だった。
生活面では、大学生として自由度が増えた反面時間管理の難しさを実感することとなった。はじめのうちは自炊に洗濯、急激に増えた事務連絡の処理などに圧倒された。それによって勉強や部活、友人との交流といった本当にやりたいことが存分にできず歯痒さを感じることも多かった。特に、2学期の終わりには睡眠時間を削って無理をした挙句1週間寝込むという事態になってしまった。それを機に睡眠時間の確保や優先順位付けの重要性を学び、課外活動も充実させつつ満足のいく成績をとることができた。
1年間の締めくくりとなったのは、夏休み始めに参加したボランティアキャンプだ。これはケンブリッジの学生団体による活動で、1週間マンチェスターに滞在して子供向けの科学教室を開くというものだった。子供は大人よりも厳しい観客とは言うがまさにその通りで、どうやったら彼らの興味を引けるかという試行錯誤の連続だった。その分彼らをわっと驚かせたときの喜びは格別だった。またこのキャンプというのが自分たちでテントを張り寝袋で寝るという文字通りのキャンプで、都会暮らしに慣れた私には新鮮だった。イギリスとはいえ真夏とは思えない寒さや20人共同で床は泥まみれのシャワーなどかなり過酷ではあったが、仲間と一緒に料理をしたり真っ暗闇の中でミニゲームをしたりという濃密な時間を過ごせた。
最後に、このような素晴らしい機会を下さった田崎理事長とTazaki財団に感謝したい。