お知らせ

Mさん(University College London , Social sciences with data science / Fettes college 出身)

5年間の留学生活を終えて

はじめに
Tazaki財団の奨学生として書く、最後のレポートとなりました。
合格の通知をいただいた時、目の前がぱっと明るくなり、これから始まる新しい生活への期待で胸がいっぱいになったことを、今でもよく覚えています。あの時始まった5年間が今終わろうとしていることに、寂しさを感じると同時に、大きな感謝の気持ちを抱いています。
振り返ると、この5年間は、英国で学び、全力で楽しんだ時間であったと同時に、日本で高校一年生まで育った自分のルーツや価値観を見つめ直し、将来どのように社会へ貢献していきたいのかを考え続けた日々でもありました。また、多くの人との出会いに恵まれ、人生で最も刺激的で、充実した、かけがえのない経験を積むことができました。
そして何より、私は心から「留学に行ってよかった」と思っています。そう思えるのは、Tazaki財団の皆様の温かいご支援があったからです。これまで支えてくださり、本当にありがとうございました。
このレポートでは、5年間の留学生活を振り返りながら、出会いや学びを通して自分がどのように変わったかについて記載します。

新しい世界への一歩 (渡英前)
高校の掲示板でTazaki財団の募集案内を見つけた時、海外で学びたい、生活してみたい、という漠然とした夢が、初めて現実の選択肢として目の前に現れました。
日本に留まるのではなく、英国で学ぶという道に迷いはありませんでした。「もっと広い世界を知りたい」「学んだことを、いつか日本や社会のために活かせる人になりたい」という思いが強くあり、この機会を絶対につかみたいと思いました。
また、Tazaki財団の皆様には、留学の機会だけではなく、自分を信じる力もいただきました。複数回の面接やBritish Councilでの研修を経て、奨学生として選んでいただいたことは、大きな自信につながりました。当時の私は、やりたいことや挑戦したいことがたくさんある一方で、自分の考えや価値観が周囲にうまく伝わらないと感じることがありました。何事にも全力で向き合う姿勢が、時には周囲と合わないように感じられ、「自分はこのままでよいのだろうか」と不安になることもありました。
そのような中で、Tazaki財団の皆様に自分を認めていただき、英国へ送り出していただいたことは、私にとって大きな支えとなりました。その経験は、「このままの自分で挑戦してよいのだ」と思えるきっかけになったように感じています。

自分の居場所は自分で作る (Fettesでの2年間)
Fettesでの生活は、日本にいた時には想像もできなかったような刺激と新しい発見に満ち、とても楽しく充実した日々でした。渡英初日、羽田空港から出発し、エジンバラに到着したのは夜中でした。その日は旅の疲れもあり、学校を見学することなく寝てしまいましたが、翌朝外に出ると、お城のような建物 (学校) が目の前に広がっていました。その感動は今でも覚えています。
今でこそ最高だったと言える英国での生活も、最初から順調だったわけではありませんでした。誰も自分を知らない環境で生活を始めるということは、想像以上に大変でした。マイノリティとして生活し、第一言語ではない英語で授業を受け、友人関係を築き、自分の考えを伝えることは、決して簡単ではありませんでした。
誰に頼ればよいのか、どのように振る舞えばよいのかも分からず、不安や孤独を感じることもありました。対面で外国の同世代の人と話すことも初めてで、分からないことばかりの中、常に緊張していました。最初は、言われるがままに、流れに身を任せ、よくわからないけどとりあえずやる、といった日々を過ごしていたことを覚えています。
そんな中でも私は、「自分の居場所は自分でつくる」という気持ちをいつも持っていました。待っているだけではなく、自分らしさを表現する機会を探し続けました。
そこで大きな転機となったのが、9月の下旬に学校の演奏会でピアノを披露したことでした。
コンサートでは、日本の曲やジブリのジャズアレンジを演奏し、自分のバックグラウンドや好きなものが、人とのつながりを生むことを実感しました。自分らしさを表現したことで、友人や先生との距離が縮まり、自然と自分の居場所ができていきました。また、その場では英語への不安も忘れ、人との関わりそのものを心から楽しむことができていました。
この経験を通じて、環境の変化に対応するために臆することなく最初の一歩を踏み出すことの重要性を学びました。大変なことも多くありましたが、自分から行動し続けたことで、留学生活を自分らしいものにすることができました。
Fettesでの2年間は、新しい環境の中で自分らしく居場所をつくる力を育ててくれました。最初は戸惑うことばかりで何が何だかわからなかった英国での生活も、友人や先生との出会いを通じて次第にとても楽しいものになりました。フォーマルパーティーやスポーツ大会などの季節ごとのイベントや、音楽活動も全力で楽しみ、エジンバラという街自体も満喫しました。大学以降も毎年春に2週間程度訪れていたほど、Fettesも、スコットランドも、気づけば私にとって大切な場所になっていました。

ロンドンでの大学生活 (UCL)
2年間のFettes生活を終え、UCLに進学、Social Sciences with Data Scienceを専攻しました。専攻コースでは、もともと興味のあった貧困、教育格差、移民問題などを、データを通して捉えることで、考え方に幅と奥行きを持つことができました。複雑な社会課題を多角的に理解し、その背景や要因をデータで分析することは、とても面白かったです。
大学生活当初は、イベントの多さに圧倒されたり、同じ寮生活でもFettesの頃のような温かい一体感を感じられず、寂しい気持ちになったりすることもありました。しかし、ロンドンでの生活への不安はほとんどありませんでした。Fettesでの2年間を通して、英国での生活に慣れ、この国や人々のことが好きになっていたため、新しい環境にも前向きに飛び込み、さまざまな人と自然に話し、自分から友人をつくることができました。

大学生活は自由な時間が多いため、さまざまなことに挑戦したり、友人とヨーロッパ旅行をしたりと、充実した時間を過ごしました。
特に力を入れたのが、Jazzの活動です。もともと音楽は大好きでしたが、それまでは主にクラシックを演奏しており、Jazzや即興演奏の経験はほとんどありませんでした。それでも、毎週大学のバーに行き、友人たちとセッションを重ねる中で少しずつ上達し、2年目からは多くの機会でソロを演奏をしました。Jazzを通じて出会った友人たちは、物理学、数学、医学、政治学など、さまざまな分野を専攻していました。練習前後に話したり、休日に遊んだり、楽器の練習を一緒にしたりできる、沢山の良い友達に恵まれました。音楽そのものの楽しさだけでなく、多様なバックグラウンドを持つ友人との交流を持てたことも、私にとってJazzから得られた大きな財産の一つです。
また、UCLではキャリアオフィサーとしても活動し、日本企業と英国の学生をつなぐ就職イベントの企画運営に携わりました。活動を通じて、さまざまな先輩からインターンシップについて教えていただいたり、多くの企業や人事の方々とお話ししたりする機会を得ました。企業について知るだけではなく、自分自身が将来何をしたいのかを考えるきっかけも多く持つことができ、その後の就職活動や現在のキャリアにもつながりました。

ロンドン生活では、住居探しや物価の高さなどの苦労もありました。大学2年目は学校に近いシェアハウスに住んでいましたが、設備面でのトラブルが起きた時の対応や、レスポンスの悪い大家さんとのやり取りなど、大変に感じることが多くありました。また、私の場合、学校のすぐ近くに住むことで生活のメリハリがつきにくく、常に学校にいるような気持ちになってしまうことにも気が付きました。
その経験を踏まえ、最終学年は少し離れたハイドパーク周辺 (Queensway) に住むことにしました。当初は友人と2人で住む予定でしたが、条件のすり合わせが難しく、最終的には1人で暮らすことになりました。それでも、前年の経験から、大家さんが信頼でき、連絡にきちんと対応してくれる方か、周囲の治安はどうか、設備は良いか、交通や生活の便はどうか、など、自分なりの基準を明確にして家を探すことができました。Tazaki財団の皆様のご支援のおかげもあり、最終学年には安心して過ごせる環境を整えることができ、特に、ロンドンでの生活を心から楽しむことができました。
住居探しを含め、自分にとって何が大切なのかを考え、自ら生活を整えた経験も、自立して生きる力につながったと感じています。

5年間を通じて変わったこと
留学を通じて大きく変わったことの1つに、自分の中にある人生の選択肢や価値観が広がったことが挙げられます。
英国では、何を大切にして生きるのか、どのように働くのか、何に時間を使うのかについて、本当に多種多様な考え方に触れました。ホームステイ先の家族や友人たちと過ごす中で、自分の好きなことや大切なものを大事にしながら生きる人たちの姿を多く見る機会がありました。
特に印象的だったのは、学業だけが人生の中心ではないということでした。私自身もA-level試験を控えた時期に音楽活動に真剣に取り組み、高校最後まで部活動を続ける友人たちの姿を見て、何を成し遂げるにも道は1つではないと感じました。
留学前の私は、将来について考える時、どこか限られた選択肢の中で正解を探していたように思います。常に結果を求め、1番になることを追いかけるあまり、自分が本当に大切にしたいものを見失いそうになることもありました。
しかし、英国で多様な人々と出会い、それぞれが自分なりの価値観や優先順位を大切にしながら生きている姿を見て、「人は人、自分は自分」と自然に思えるようになりました。また、バックグラウンドも何もかも違う環境だったからこそ、決断の際自分の気持ちがより見えやすくなっていたような気もします。
自分が何を大切にしたいのか、自分にとってどのような人生が幸せなのかが、以前よりも明確に見えるようになったことは、留学を通じて得た大きな変化です。
学びに対する考え方も大きく変わりました。
英国では、知識を覚えるだけではなく、根拠とともに自分の意見や立場を伝えることが求められます。そのため、エッセーやディスカッション、データ分析などを通じて、1つの問題を構造的に捉え、多角的に考える力が鍛えられました。こうした経験は、就職活動の面接でも活かされ、自分の考えを論理的に伝えることが以前より自然にできるようになったと感じました。また、問題解決や意思決定の場面においても、物事を多面的に捉える姿勢が役立っていると感じます。 私は中学時代からディベート活動に取り組んでおり、もともとさまざまな視点から物事を考えることが好きでした。しかし英国では、そのような姿勢が学びの中心にあり、自分の強みとして評価されたことに大きな驚きを感じました。そして振り返ってみると、中高時代に特別な意識を持たずに楽しんでいたディベートの経験が、英国での学びや、その後の進路にもつながっていました。目の前のことに真摯に向き合うことは決して無駄にはならず、思いがけない形で将来の自分を支える力になるのだと学びました。
日本と英国という2つの異なる教育を経験したからこそ、「考える力」とは何か、そして、その力がどのように社会や人生の中で活きるのかを実感することができました。

感謝とこれからの決意
最後になりますが、このようなかけがえのない機会を与えてくださったTazaki財団の皆様に、心より感謝申し上げます。財団の皆様、英国で支えてくださった先生方や友人、そしていつも応援してくれた家族がいたからこそ、私はこの5年間の留学生活を無事に終え、多くの学びと成長を得ることができました。
英国で過ごしたこの5年間を、ただ「英国にいた期間」で終わらせたくはありません。留学で得た視点や行動力、多様な価値観を受け入れる姿勢、そして自分で考え、判断する力を、これからの仕事や人生に確実につなげていきたいと思っています。
また、留学の中で、自分の日本のルーツや価値観が、自分らしさを形作る大切な要素なのだと感じるようになりました。高校や大学で日本の楽曲を演奏した時、日本で育った背景や、自分が大切にしてきたものが人とのつながりを生み、多くの人との会話のきっかけにもなりました。また、日本の文化や価値観、教育の特徴を客観的に見ることができるようになり、日本は海外から大きな関心と好意を持たれていることも実感しました。

そうした経験を通じて、自分が学んできたことや経験を、日本や世界に還元していきたいという思いがより一層強くなりました。私は今年7月より外資系IT企業に入社し、AIやクラウドに関わる仕事をしています。テクノロジーは単なる便利な道具ではなく、人や企業の可能性を広げる力を持っていると感じています。だからこそ、技術そのものだけでなく、相手が何を実現したいのかを理解し、価値を届けることに大きなやりがいを感じています。
高校生だった私が勇気を持って世界へ飛び出し、自分の可能性を広げることができたのは、Tazaki財団の皆様が私を信じ、背中を押してくださったからです。奨学生に選んでいただいた経験は、今でも新しいことや困難に挑戦する原動力となっています。
いただいた機会を自分だけのものにするのではなく、これからの人生を通じて社会に還元していきたいと思います。Tazaki財団からいただいた機会とご支援への感謝を忘れず、今度は私が人や組織の可能性を広げ、新しい挑戦を後押しできる存在になれるよう歩み続けてまいります。

改めまして、これまで関わってくださった皆様に心より感謝申し上げます。
Tazaki財団の奨学生として過ごした5年間は、私の人生の宝物です。この経験を大切にしながら、これからも挑戦を続け、学びを社会へ還元していきたいと思います。

最高の5年間を、本当にありがとうございました。