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Kさん(University of Cambridge, Natural Science / Kingswood School出身)

このレポートを書くにあたり、他の財団生のレポートを見直し何について書こうかと考えていました。今までは入学や卒業などビックイベントが多くありましたが、今年一年は特別な行事などはなく、目の前のやるべきことを淡々とこなし気がついたら終わっていたような気がします。よくいうと大学生活に順応したということかもしれませんが新しく挑戦することが少なかった点が反省点です。
話を戻して、肝心の内容ですが、私なりに考えた「短期留学と高校から留学することの違い」「Cambridge Natural Sciences学部紹介」「1年の総括」の3本立てでお届けできればと思います。

- 短期留学と高校から留学することの違い
テストを終え夏休み中に、日本の高校の同級生でヨーロッパの大学にI年間交換留学をしていた友達二人とスペインを旅行しました。その時の会話で、高校から留学するのと短期留学は同じ留学でも全く異なるものだと強く感じました。(海外の大学を受験して留学するという選択肢もありますが、あまり明るくないので今回は触れないでおきます。)どちらがより良いかを論じたいのではなく、必ずそれぞれに良い点やdrawbacksがあります。個人の叶えたい事に応じて最適な選択ができる助けになればと思います。
まず最も大きな違いは、説明するまででもなく留学の機会の多さでしょう。交換留学プログラムのある日本の大学は年々増加しており、一部の大学では短期の留学が必須になっています。政府始動の奨学金をはじめ社会全体が昔より交換留学に対して積極的になっていると思います。一方で、まだ中高生の時期から留学をスタートするというのはメジャーではないと思います。一番の理由はやはり費用面でしょう。現地の学校でScholarships取得を目指すこともできますが、学費全額免除というケースは少ないようです。(改めて高校2年間と大学の間不自由なく生活できるようサポートしてくださるTazaki財団には感謝の気持ちでいっぱいです。)
他にも、ボーディングスクール生活の有無は、留学経験において大きな違いをもたらすと思います。ボーディングスクール生活を経験することによってイギリス流の全人的教育を受けることが出来ると思います。学問はもちろんのこと、課外活動や寮生活、休暇中のホストファミリーとの関わりを通してイギリス人の価値観をひしひしと感じることになります。例えば、休暇中ずっと勉強していた私にホストファミリーはしっかり休むことも勉強すること同じくらい重要だと言いました。コツコツ積み上げる習慣や忍耐力が評価される日本で育った私にとってホストファミリーの考え方は衝撃でした。また、クリスマスのお祝いの仕方も日本のそれと全く異なり、素敵な思い出になっています。そして、16歳というアイデンティティを構築する上で最も多感な時期にイギリスで生活をしたことによって、日本人としての感覚だけでなくイギリス人としての感覚もほんの少しですが得ることができたと思います。
一方、大学になると自由度が高く自主性を鍛えることが出来ると思います。授業や生活スケジュールも自己責任です。イギリスの大学は様々な国から留学生を受け入れていて、普段なかなか出会うことのできない様々なバックグラウンドを持つ人と関わることができます。また、日本と海外で専門分野を学ぶことによって、国や文化によって異なる着眼点や考え方を知ることが出来ると思います。
総じて、どのような形の留学であっても、comfortable zoneを一歩出てみると、得られる学びは計り知れないと感じます。そして、最終的にどれだけ充実した留学生活を送れるかは、自分自身の姿勢次第です。少し偉そうに聞こえるかもしれませんが、これは自分への戒めでもあります。来年は、留学生活5年間の集大成として、胸を張って振り返られる一年にしたいと思います。

- Cambridge Natural Sciences学部紹介
イギリスの大学はScienceの中でもどの分野を専攻するか大学入学前に選択することがメジャーです。そうすることにより学部の早い段階から自分の興味のある分野について深く専門的に学ぶことができます。一方で、ケンブリッジ大学ではBiology, Chemistry, Physicsといった独立したコースではなくNatural Scienceというコースにエントリーします。自由な組み合わせで授業を受けることが出来るので、科学を幅広く学ぶことができます。以下に、2027年以降入学者向けのケンブリッジNatural Sciencesで取れるコースを記します。

1年目
Biology系:Biology of Cells, Evolutionary Biology, Physiology of Organisms, Introduction to Experimental Psychology: From Brain to Cognition
Chemistry系:Chemistry
Physics系:Earth Sciences, Material Sciences, Physics
の中から3教科と数学(BioよりかPhysics/Chemistryよりで選択)の合計で4つのpaperを受けます。

2年目
Biology系:Biomedical Challenge and Change, Biodiversity Ecology and Conservation, Cells of Organisms, Evolution and Diversity, Infection Immunity and Genetic diseases, Molecules of Cells, Neurobiology in health and diseases
Chemistry系:Chemistry A, Chemistry B
Physics系:Earth Sciences A, Earth Sciences B, Material Science, Physics A, Physics B
Maths系:Mathematical and Computational Biology, Mathematics
その他:History and Philosophy of Sciences, Quantitative Environmental Sciences
という15コースの中から3教科自由に選択します。
AコースとBコースに分かれているのは、扱う範囲が広いため内容を2分野に分けているからです。例えば、Chemistry Aでは理論化学を、Chemistry Bでは有機化学・無機化学を学びます。どちらか一方のみを受講することも可能で、実際私はChemistry Bだけを履修しました。

3年目
Biology系:Biochemistry*, Biological and Biomedical Sciences, Genetics, Pathology, Pharmacology, PDN, Plant Sciences, Zoology
Chemistry系:Chemistry*
Physics系:Astrophysics*, Earth Sciences*, Material Sciences*, Physics*
その他:History and Philosophy of Sciences*, Physical Sciences
の中から1教科選択します。*がついているコースはIntegrated Mastersがあるので、続けて4年目にMSciの学位をとることが可能です。

様々なコンビネーションのpaperをとることができるので、広くSTEM分野に興味がある人、どの分野を専攻したいか入学時に決まっていない人に最適だと思います。また、同じ内容でも扱っているコースによって全く異なる切り口で学ぶのがとても面白いと感じました。例えば、同じ薬についての内容でもBiology of Cellsでは薬がどのように細胞の中でmetaboliseされるかを中心に勉強したのに対し、Chemistry Bでは主にreceptorとdrugのinteractionについて学びました。どちらも創薬には欠かせない重要な知識だと思いますが、畑が違うと注目するポイントも異なるは面白いです。一方、Natural Sciencesでは勉強する範囲が広いのでその分勉強しなければならない絶対量は多く、あまり掘り下げられずに終わってしまうトピックもあります。

- 1年の総括
今年を振り返ると、大きな困難は少なかった反面、達成感もそれほど強くはありませんでした。しかし収穫もあり、その一つが化学の面白さに改めて気づけたことです。もともとA-levelの頃から好きな科目ではありましたが、今年は化学への情熱が一段と高まったように感じます。特に、実験で観察した現象を授業で学んだ理論で説明できたときの爽快感は忘れられません。また、これまで闇雲に暗記していた有機化学の反応も、pKaを覚えたことで理解できるようになり、暗記量が大幅に減って学習がぐっと楽になりました。そして、来年は化学を専攻する予定です。楽しみであると同時にあまり好きではない理論化学を学ぶ必要があることが心配です。けれど、最終年に相応しい充実した1年にし、やりたいこと全てやり切って後悔なく帰国したいと思います。

P.S
夏休みに5期生の予定の合うメンバーでイギリス国内旅行をしました。その時に、各々が学んでいる分野の話で盛り上がり、こんなニッチな内容の話で盛り上がれる友人がいることに大きなありがたみと幸せを感じました。このような素晴らしい仲間は一生の財産です。改めてTazaki財団に感謝の気持ちを持ちつつ、最後の一年を素晴らしいものにしたいと思います。