
6 年の英国留学が終わりました。
次は大学院(graduate study)となります。ここまでを振り返ると、先のことをあまり考えずに下した決断が繋がって現状に至っている事を感じます。まとめると、英国留学決意、理論物理を専攻、『皇帝の新しい心』に出会う、卒業研究で分子シミュレーション、生物物理を今後の道として選ぶ、の流れになります。
英国留学決意
高校1年の夏休みにTOPS (Tokyo Oxford Programme of Summer)に参加しました。2週間のプログラム(高校生は)の中で、大学生に混ざってOxfordのclassics, law, Greek artの授業を受けました。他には Cotswolds のクエーカーの集会所やロンドンで裁判所訪問、Christ Church でディナーなどのアクティビティがありました。TOPSにはTazaki生も参加しており、そこで英国留学について知りました。その後も何度か葛西教授にお会いし、財団の奨学生募集に応募させていただきました。母に勧められて参加したTOPSでしたが、そこで受けた印象の大きさによるものか、高校 2 年の夏には渡英に向けた準備に忙しくしている様でした。
理論物理を選ぶ
Kingswood ではmaths, further maths, physics and chemistry を勉強しました。日本にいた頃は医学部を考えていた為、イギリスでもYear12まではそのつもりで授業を受けていました。しかし、医学部に入るにはボランティアなどの実地活動が重視されると知らされ、その道を断念しました。そこで何をしたものかと考えていた所にふと思いついたのが物理、特に理論物理でした。ここでも特に強い動機や大学後の事を考えずにした決断でしたが、後から見ると必須であったものでした。
『皇帝の新しい心』
大学1年の冬休みにR. PenroseのEmperor’s New Mindを読みました。内容は、意識を物理現象と見た時にどの物理法則が適用されるか、という質問についてです。彼は、Gödelの不完全性定理から、人間の思考をdeterministic ではないと結論し、脳は量子崩壊を恣意的に利用していると推測します。彼の議論は具体的ではなく、直接実験で確かめるのが難しいものですが、生物現象を物理の観点から見るという例に初めて触れました。
卒業研究
卒業研究のテーマは先生達のリストの中から選ぶ形の為、物理学科で行われている研究を強く反映しています。大学の授業はとても良かったのですが、彼らの研究には余り興味をそそられるものがなく、唯一見つけたものがSpin Dynamics Simulations of a Single-Molecule Magnet でした。Single-Molecule Magnet は強い磁性を持つ分子の事で、私が扱ったのはDysprosium に 2 つの同一な ligands が付いている分子です。この研究がどの様に物理生物に関わるかと言うと、私が使っていたシミュレーションパッケージに使われている理論(process-tensor approach)が光合成に於ける light-harvesting complex でのエネルギー運搬の解析に用いられた、という事を知った事です。これは生物現象の量子力学的理解の試みの1 例で、もう 1 つの例に ion channel の selective filter に於けるイオンの配置を 2-D IR spectroscopy の結果から調べると言うものもあります。卒業研究で1つの分子を厳密に量子的に扱う事すら難しい事を学んだ私からすれば、生物系の厳密に量子的な解析はcomputerの計算スピードを考える限り不可能に見えるので、それが直接生物物理研究の動機になった訳ではありませんが、生物現象を物理原理から調べる具体例を知った事が大学院応募のきっかけとなりました。
大学院
大学4年の1学期にneuroscienceで4つのコースに応募し、2学期にはbiophysicsで2つ応募しました。その結果、バーゼル大学のbiophysicsから修士課程のofferをもらい、9月からスイスで生活が始まります。この1年間の修士課程は研究に焦点が当てられており、その間に PhD で深掘りできる様な研究エリアを見つけることを目標にしています。Neuroscience の枠組みの中で研究テーマを見つけるつもりですが、そこにも異なるスケールがあります。1つのニューロンでもselective filter の様にイオンスケールから、全体での電位変化、ニューロンのネットワークでは、最終的には1つの脳のスケールになります。意識を脳を単位として考えるなら、ニューロンのネットワークのある表象と捉えるのが自然ですが、そのネットワークのパラメーター設定にはニューロン1つの外部刺激への反応、そして数個の相互作用の理解が必要です。さらに、最近ではニューロン間を占める細胞間液内の物質の異なる脳の部位での協調リズムの観測があり、ニューロンネットワークを開いた系、つまり接している細胞間液と相互作用した系と見るべきかもしれません。いずれにせよ、自分のできる事を見つけられればと思います。
末尾になりますが、以上に挙げた一連の流れは財団の援助が基となって起こったものです。田崎会長、並び財団事務局の皆様にはお礼をし尽くせません。Alumnus として今後も宜しくお願いいたします。