お知らせ

Aさん(Durham University, Natural Sciences / Christ's Hospital出身)

【初めに】
Durham大聖堂のオルガンの音と共に卒業式を終えた時、6年間の留学生活の思い出がどっと蘇ってきました。

長くなりますが、このイギリス生活で培うことの出来た経験と私の思いを三章に分けて書かせて頂ければと思います。一章目は、私が感じた留学から得ることの出来た視点と思い(これから留学を考えている皆様にとって少しでも参考になれば嬉しいです)。二章目にこの大学生活で私が気づいた”旅”をすることの面白さと意義。最後の三章は、私の留学生活のテーマであった“自然”とは何か。また、なぜ環境保全が必要なのか。私の見解を書かせて頂ければと思います。ぜひ、皆様が興味があるところを、部分部分読んで頂ければ嬉しいです。また可能でしたら、自然がテーマの三章では、ぜひ皆様が感じる”自然”に触れられる所で読んで頂けると幸いです(家の庭や公園の緑が見える窓辺でもどこでも)。

【一章目:留学をして得ることができたもの】
6年前、Tazaki財団の志願理由書を書いていたことが昨日のように思い出すことができます。当時は、訪れたことのないイギリスに夢を抱き、留学する事が未知で夢のことのように感じていました。この章では留学生活を通して得ることができたことを三つ共有させて頂けたらと思います。

「留学してみて何が良かったの?」

この質問をよく頂きます。今、私が自信を持って答えられるのは”多様的な観点、比較対象を得ることができたこと”です。イギリスに住み、勉強する中で各地域の文化、食、暮らし、異なる考え方そして、多様な物事の見方を学ぶことができました。毎回、自分自身の“当たり前”が当たり前ではなく沢山ある国、地域また人々の中で一つの考え方でしかないことに気づかされました。

そうした気づきの中で、日本は、私はどうなのかと、比較し新しい考えと見方に触れる事で自分自身また日本の事を再発見することができました。そのような多様な人生体験と観点を交換し合うことで、自分自身の価値観が変化し大きくなっていく実感を得ています。例えば、Durham大学では”Decolonisation (非植民地化)”インターンとして、「今まで教科書に書いてある知識や内容は本当に正しいのか、植民地時代に発展した科学や学問の中で欧米中心の考え方と認識にとらわれてしまっているのでは。」と大学の教授と共に大学のカリキュラムを再評価していきました。先住民族や各国々の学問の歴史を調べ比較することで誰が何を発見し、異なる地域間で何を共有し、どう発展したか、どう植民地化の歴史が各地域と民族の考え方に影響を及ぼしたのか研究し、他生徒や教授に共有し議論していきました。教科書で学んだことが全てではない。多様な考え方を学んだ上で自分自身の意見を述べることの大切さを実感しました。この留学を通して学んだ、ただ一つの考え方に捉われるのではなく、多様な考えと価値観が共存できる為のスペースと柔軟な思考を持つことをこれからも意識していきたいと思います。

二つ目は、新しいことに挑戦できる環境とそこから得られた行動力です。本当にこの6年間沢山の人に支えられ、様々な経験を得ることができました。留学当初は、興味があっても私にはできるのだろうかと不安に思うことがありました。けれど、ホストファミリーや高校の先生方が「挑戦すればいい。」と後押しをして下さったり、私の興味があることに関連することを見つけて下さったり。自分自身の行動範囲を少しずつ広げることができました。特にイギリスの盛んなボランティア文化と活動に影響を受け、各地域のボランティア活動に参加しました。新しいことにもすぐにチャレンジし、他のボランティアの皆様も本当に親切で一から百まで丁寧に教えて下さる中で沢山の学びとスキルを得ることができました。例えば、大学最終学年では水辺の植生と生態に興味を持ち、地域の川保全団体にボランティアとして活動させて頂きました。水生生物の識別のトレーニングから、川の清掃活動へのボランティア同士での送迎、情報共有また、私が大学の河川の生態調査と評価をしたいとお願いしたら喜んで調査器具を貸してくださいました。やりたいと思うことを挑戦できる、また失敗してもサポートをして頂ける環境があることに本当に感謝の気持ちで沢山です。私はそうした環境とコミュニティーがあったおかげでチャレンジ精神とやりたいと思ったらすぐにやってみる行動力を身に着けることができました。これからは、私がそのような場を作り仲間がやりたいように能動的に動けるようにサポートできる、そんなリーダーになれればと思っています。

最後に、友達の存在です。高校、大学と友達との寮生活の中で、互いの学問への思い、人生経験、楽しいこと、辛かったことを共有し、時間を共に過ごしたことはかけがえのないものだったと今振り返って感じています。大学では、異なる分野を専攻し、様々なバックグラウンドがある仲間と食事、故郷の話、時には政治、自然、哲学的なことも話し合い、一つの分野だけでは見ることのできなかった社会や物事の見方に気づかされました。また、お互い困った時に支え合い、友達の勉学への取り組み、将来や夢を語り合いました。その中で「私も!」と鼓舞されることが沢山ありました。いつも身近で支えてくれた親友達には感謝の気持ちでいっぱいです。また、お互いこれから異なる場所と分野に進んでいきますが、これからも互いの夢を語り合い続ければと思います。

留学を通して得られるものは1人1人違うと思います。留学を通して世界の見方が広がり、常に疑問を抱きながら思考し、支え合える環境と仲間を大切にすること。こうして私が得ることの出来たイギリスでの経験はかけがえのない宝物です。

【二章目:青年と旅 -広がる世界の見方-】
この6年間、イギリスの長い休暇や学生へのサポートを利用してイギリス内、ヨーロッパ、日本各地へと旅に出させて頂きました。友人と休暇で、大学の研究の為、インターン、Placement時の社員旅行、1人旅など様々な”旅”を経験する中で、旅することの面白さ、学びを得ることができました。この章ではぜひ留学している皆様またこれから旅をしたいと思っている方に、私が考える旅の意義をこれまでの経験と私が現在はまっている日本民俗学の父、柳田国男著の「青年と学問」から共有できたらと思います。

「旅は学問のうちであり、旅が何物かを我々に与えるー柳田国男」

柳田国男は、明治時代に活躍し農林水産省に勤め、日本各地の農村を歩きまわりその土地の風土、伝統、生活を自ら体験、研究し日本民俗学を創り上げていきました。彼は、現代の遊覧の旅行の大切さと楽しさを認めながらも昔ながらの”旅”はその土地の歴史を学び、交流し、人また自分自身を知る為のものだったと語っています。彼は例として、松尾芭蕉のような多くの俳諧師も日本中を旅し、自然の厳しさ、地元人の生活に触れその一部を自分のものにし、多くの美しい文学を残してきたと述べていました。

私も、1人旅で東ヨーロッパ、Durhamがある北England、日本の知床と長崎の五島列島を旅してきました。人に出会い話し、働き、その土地の自然と街を歩き回り、毎回その中で新しい考え方を得て自分自身が広がって行く感覚があります。私は旅はその土地に赴くだけではない。旅を通して出会った人々と、経験と物事の見方を互いに交換し新しいものを得ることができると感じています。例えば、北Englandでは南Englandと貧困の差や歴史的背景が違うことに気付かされました。その地域の方々と話すことでこれまで考えたことのなかったイギリスの多面的な側面を知ることができました。また、今年の夏に島国日本の昔ながらの暮らし、人と自然との向き合い方を探す為2週間半程、長崎五島列島 小値賀島で働かせて頂きました。島でブラジル、フランス、イギリスから来た同僚と外国人として日本で働くことの経験と思いを聞き、小値賀島の和尚様と博物館の学芸員の方からは島の成り立ちと歴史・文化、漁師の方からは時代と共に変わる自然と漁業の変化など、新たな学びと気づきがありました。そうした沢山の方々と出会い互いの経験と知識を共有することで面白いアイデアや疑問、考え方が化学反応のように浮かんできました。私にとってこういう事ができることこそが”旅”の醍醐味であり柳田国男が言いたかったことなのではないのかと感じています。

ぜひ、この文章を読んでいただいている方が”旅”を最大限に楽しめる為のお手伝いが少しでもできるよう私が利用した旅のサポートとサイトを共有できたらと思います。以前のレポートにも紹介させて頂きましたが、ヨーロッパを長期旅してみたいとなったら電車の旅がおすすめです。EU圏内とイギリスを含めすべての国を一定期間自由に移動できることが出来るInterrailという電車定期は、時間がかかりますが沢山の国を見たり電車から見える風景、同じく電車を利用する乗客と話したりなど飛行機やツアーの旅とは違うその土地と人を感じられます。27歳以下の学生向けに発行される電車定期でぜひ一度利用してみてください。その次に強くおすすめするのは”Workaway”です。この旅のウェブサイトでは世界中のホストさんと繋がることができ、仕事を1日5時間する代わりに宿と食費が無償で提供されるものです。私は、長期一人旅する時によく利用し、地元のコミュニティーや同じような旅人たちと出会い、寝食を共にし働くことで沢山の出会いと経験を積むことが出来ました。Workawayは世界中で利用することができ、日本にも何十か所か里山再生、言語の先生、文化交流、宿の手伝いなど幅広くあります。ぜひ、日本国内外を問わず利用してみてください。

私自身もまた新しい価値観、考え、出会いをもとめて”旅”を続けて行こうと思います。

【三章目:自然を守る意味とは ‐これからの環境保全‐】
毎年更新される記録的な豪雨、猛暑、増える山火事、進んでいく気候異常が日常生活の中でも感じられるようになりました。日々のニュースや記事では、海のプラスチックやNet Zeroや生物多様性保全への動き。環境、動植物、自然が今危機に侵されている様子が様々なメディアを通して報道されています。大学で環境保全学を勉強する中、科学者が、国や政治、会社、コミュニティーが現在の環境問題に対してできること、直面する危機について話し合ってきました。議題では経済、国、社会にとってなぜ自然の保全と地球温暖化抑制への取り組みが大切かというものが大半です。

では、「私達、一人一人にとって自然とは何か。自然と共に生きるとはどういうことなのか。」私の夢は、人と自然が共存し互いを支え合う場所づくりをすることです。だからこそ、今までの私の経験、友達との議論、読んできた論文からなぜ自然が私達にとって大切なのか、環境保全をする意味を私の見解と共に皆様に共有できたらと思います。レポートの冒頭で書かせて頂いたように、読んでいる皆様が思う自然や緑が見える所で一読して頂きましたら幸いです。

最初に私の答えをまとめると、

「私達、人間は自然の中の一部である。自然は私達が今ここにいる、私が私でいることに欠かせないもの。だからこそ、自然を守り共存する未来を探すことは、私がどう将来その土地で生き、存在していくか物語を築くことである。」

まず、自然とは何でしょう。日本語の語源から”自然”とは「山川草木をおのずからそこに在るもの」つまり意識せずともそこにあり私達人間はその自然と常に共にあるされていたと言われています。しかし現在の辞書では西洋のNatureの定義を採用し「何らかの形で人間とは独立している、人為の加わっていないすべての動物、地形、営みのこと(Cambridge辞典、広辞苑)」すなわち、人と自然を対立して考えることが広まっていきました*1。

皆様は「自然」と聞いて何を思い浮かべますか?人は自然に含まれると感じますか?私がここで強調したいのは、「人間=自然」ではなく「人間<自然」つまり人間は広大な自然の中でその一部を構成する立場でしかなく、大きな自然というものの中の小さな歯車でしかないということです。私達の活動は時には自然全体に大きな影響を与えます、しかし、人間という歯車は人間とは関係なく動き続ける他の歯車(大気、地形の動き、動植物)に大きく影響される。だからこそ、自然の中で人間の存在は大きく、また同時に小さく翻弄されるものではないのでしょうか。人間の手の加わっていない屋久島の原生林、南米の熱帯林も、またもや日々の私達の生活にある公園の花々、広がる田畑、庭の芝、私達人間も自然である。だからこそ、どうその土地の自然に私達が影響され、私達が影響を及ぼしているのか考えることはとても面白いことだと思います。

ではなぜ自然を守ることは私たちの存在と将来を守ることに繋がるのでしょうか。私は大学で地学、地理、生態学を勉強しました。地学から何十憶何万年前の地形と環境の変化、地理から何千百何十年前から人間が及ぼしてきた影響、そして生態学から現在とこれからの土地の動植物と多様性の変化を調査します。こうした作業の中で、長い歴史の積み重ねで一つの土地が今なぜこの形をしているのか、なぜこのような人々の暮らしがあり、野生動物と草木が生息するのか。すべてが本当に偶然でありながら必然的に繋がっているんだと毎回驚かされます。

だからこそ私が日本人であり私が私であるのは、こうした長い時間の中で日本という島国が生まれ、海と山の幸に恵まれ、自然災害があり、自然と構成されていく地形の中で文化が生まれ、人が住み、私が生まれ。その大地、自然と人間の営みの積み重ねで私がいる。そう思うと、この美しいまたすぐそばにある自然のおかげで私がいると感じます。だからこそ環境破壊とは自然を壊すだけではなくその土地に住む人々、繋がり、存在を脅やかすことに繋がるのではないでしょうか?実際に、カナダで活躍する環境保全家のデイビッドスズキさんがカナダのハイダ先住民族に現在の森林破壊について聞いた時、彼らも「この森があるから私達はハイダ民族であり、その木々がなくなった今、私達はもうただの人間になってしまった。」とおっしゃたようです*2。

環境保全は自然を守るだけではない。これから私達がどうありたいか、これから今までの長い歴史の上で私達が将来に向けてどう物語を繋げていく事だと考えています。だからこそ、これからの環境保全はただ表面上の動植物の保全や生物多様性を求めるのではなく、その土地、そこに生きる人々と生き物の繋がりに密着し、地域全体のコミュニティと共に研究し試行錯誤するべきだと私は考えます。

沢山のサポートを頂き今年の秋から、Oxford大学院で更に環境保全学を学びその土地の自然の歴史と将来を人々、動植物、大地と共に築いていく方法を探していきたいと思います。まだまだ未熟な私ですが、私の自然への想いをお読み頂きありがとうございます。ぜひこれからも沢山の人と出会い、それぞれの自然、これからの自然と共に歩く未来について語り合えたらと思います。

【最後に】
最後まで長いレポートをお読み頂きありがとうございます。私、1人の意見と体験を書かせて頂きましたが、沢山の人々とこれから出会い、想いを共有する中でどんどん自分自身の考えや視点は変わっていくと思います。このように、自由に考え、物事を探究することができたのもこの6年間本当に沢山の人に支えられたおかげです。沢山のサポートと自然への情熱のもと、最終学年では自然科学コースの1st classまたコース内優秀学生として表彰させて頂き、学士論文ではコース一位の点数(94%)を得る事ができました。留学当初辛い時にサポートしてくださったホストファミリー、鼓舞してくださったChrist’s Hospital の先生方、ボランティア活動のサポートをしてくださった地域の方々、大学でいつも熱い議論をしてくれたコースメイト、辛い時も楽しい時も時間を共有した友達、温かく本当に自由にさせてもらった家族のサポート、そしてこの6年沢山のチャンスをくださったTazaki財団の皆様のおかげです。このかけがえない経験を次に活かし、自分の夢、好奇心をもってこれからも活動していきます。本当にありがとうございました。

*1: Droz, L., Chen, H.M., Chu, H.T., Fajrini, R., Imbong, J., Jannel, R., Komatsubara, O., Lagasca-Hiloma, C.M.A., Meas, C., Nguyen, D.H. and Sherpa, T.O., 2022. Exploring the diversity of conceptualizations of nature in East and South-East Asia. Humanities and Social Sciences Communications, 9(1), p.186.
*2: デヴィッド・スズキ, キャシー・ヴァンダーリンデン. 2007. “きみは地球だ : デヴィッド・スズキ博士の環境科学入門”. 大月書店