ケンブリッジでの一年を終え、夏に一時帰国するため日本行きの飛行機に乗る私の中には、家へ帰るはずなのにどこか寂しいような、明らかに今までと異なる感情がありました。色々な意味でイギリスは私の第二の故郷になりつつあります。それはひとえにこの一年の全ての出会い、学び、そして自分自身の成長によるものだと考えています。
この大学の特徴として、学期が短く休みが長いということが挙げられます。学期中は非常に忙しい毎日となる一方、長い休み中の使い方を自分なりに考えられることはメリットでもあります。
イースター休暇には、ベルギーで行われた室内楽のセミナーに参加しました。ロンドンやヨーロッパ全土の音楽院で学んでいる学生が集まり、大きなシャトーと呼ばれるお屋敷にこもって音楽漬けの一週間を過ごすというものです。第一線で活躍されている先生方とのレッスンは大変刺激的だっただけではなく、レッスン以外ではこのような環境におけるコミュニケーションの大切さを学びました。例えば、食事はダイニングホールに全員で集まり、毎回1?2時間ほどかけて取ります。この間他の参加者や先生と絶えず話しているわけですが、一見音楽と関係ないように見えて、この食事の時間は室内楽の練習と同じくらいに学びのあるものでした。英語が母国語である・ないに関わらず、(もちろんお酒の力も借りながら笑)いかなるバックグラウンドの人ともすぐに打ち解け会話を広げる彼らの力は、ヨーロッパという様々な文化が混ざり合う地だからこそ自然に身につくものなのではないでしょうか。
音楽の世界では、人との繋がりが物を言います。技術だけではなく、頼まれた仕事を臨機応変にこなすことのできる人だけが生きていける厳しい世界です。その中で一つ一つの縁を将来のチャンスにつなげていく音楽家の一面が垣間見えた気がしました。
この1週間を通して、改めてヨーロッパにおける芸術への意識の高さ、また文化を継承することに対する誇りを感じました。私は普段音楽を学問的にアプローチするというニッチなことをしていますが、そんな自分だからこそできること、これからの自分のあり方を模索していきたいと思います。
充実した休暇も束の間、最後の学期は試験勉強の日々でした。しかしこの季節はイギリスらしからぬ良い天気が多いため、外で食べるジェラートやケム川でのパンティングといった誘惑と戦うことになります。何日か負けることもありましたが、友達と息抜きをする時間もきっと勉強と同じくらい大切だったはずです!
ケンブリッジは年に一度しか試験がなく、私の場合5月半ばから約1ヶ月かけて行われました。学部の特性上、エッセイの試験から専攻実技、ソルフェージュから指揮まで形態は様々でした。結果、専攻実技のリサイタルは学年で1位、和声・対位法では3位と満足のいくものもありましたが、音楽史のエッセイはなかなか点数が伸びませんでした。2年時は選択自由なペーパーが増え、より興味のあることに打ち込めるようになります。これまでの学びを生かし、来年6月には今年はさらに充実した一年だったと締めくくれるよう、頑張ります。