お知らせ

Nさん(University of Cambridge, Natural Science / Fettes college出身)

早いもので、2024年6月末に無事大学を卒業しました。3年生は様々な面で人生の分岐点に立たされた年でした。今回は、3年生の科目選択について、3年生の授業と研究生活について、進路を決める際考えたことの3つについて書かせていただきます。

3年生の科目選択
私が専攻しているNatural Science学部では、1,2年の成績は卒業成績に全く反映されず、3年生の成績が卒業成績の全てです。よって、最終学年の科目選択は、この先の進路に大きな影響を及ぼす可能性が高いので、選択する際はかなり慎重になりました。私はA level で生物を選択しておらず、物理化学方面(Physical Natural Science)で入学し、1,2年生の選択科目も物理化学系の科目が多かったため、生物はあまり得意ではありませんでした。しかし、2年生のときに選択したPlant and Microbial Science(植物、微生物学)という科目が興味深かったこと、また、2年生の夏休みに体験した植物科学のインターンが楽しかったことで、植物科学を専攻したいという気持ちが強まりました。もともと食糧生産に興味があった私は、得意な化学を専攻して化学肥料などの開発に携われるかもしれないと思っていたのですが、これまでに化学が農業にもたらした影響はとても大きく、既に限界に近いのではないかと考えました。環境問題などが重要視され始めている今、サステナブルな農業を目指していく上で生物学のポテンシャルの高さを感じました。しかし、物理化学系は講義と問題シートで理解を深めていく反面、生物系の科目はエッセイを書かなければならず、授業スタイルの違いもあり科目間で移動する生徒はかなり少ないように見受けられました。周りの生徒は1,2年生の間に既に生物学の知識やエッセイの経験を私よりもたくさん得ているため、植物科学を専攻した場合かなり苦労することが予想されました。悩んだ末、多少成績が落ちる覚悟でやりたい方の科目を選ぼうと決め、植物科学専攻にしました。得意なこととやりたいことが一致せず、迷ったことがある方は少なくないと思います。状況にもよるかと思いますが、私の場合はやりたいことを選んで良かったと思っています。

3年生の授業と研究生活
3年生の講義の雰囲気はこれまでとはガラッと変わった印象を受けました。1,2年生の物理化学系の科目と比べても仕方がないので、2年生の植物微生物学の授業と比較して授業スタイルが変わったかをお話しします。まずはじめに、1週間で受ける講義の数がかなり減りました。これまでは3,4科目選択していたのが1つになったわけなので、当たり前ともいえます。しかし、暇になったわけではありません。なぜならこれまでと比べて講義内容がより難しくなり、復習しつつ膨大な数の論文を読まなければならなくなったからです。3年生の授業は解明されていることとされていないことの境界に常にぶち当たる状況で、まさに最先端のことを学んでいました。そのため、「講義内容に関する新しい論文がつい最近出たから読んでみてください」と言われることが多々ありました。さらに、最終試験で書くエッセイは、授業で習った知識のみを使って書いた場合、良い成績はとれないとのことでした。一般的に良いとされる成績(1stや2.1)を取るには、講義内容を受けてさらに自分で読んだ論文や本の内容を組み込まないといけないわけです。そのため、講義内で紹介された内容にどのような研究例を組み合わせたらより議論を強化できるかということを常に意識し、自習時間には大量の論文を読むよう努めました。

次にスーパービジョンのスタイルも変わりました。これまでは、毎週決まったスーパーバイザーと毎週決まったメンツで行われていましたが、3年生は講義を担当した教授がそれぞれスーパービジョンを担当したため、毎回違う教授とのセッションでした。教授が空いている日程を提示して生徒が都合の良いスロットに申し込む制度だったので、もちろんスーパービジョンを受ける生徒も毎回違うメンツでした。それぞれの分野の第一線で研究を進めている教授たちから専門的な指導を直接受けられるため、とても有意義なセッションでした。

3年生が他の学年と最も違うのは、研究室に配属され、プロジェクトを行う点です。日本の大学でいう卒論のようなものでしょうか。私は、Crop Science Centreという大学直属の穀物栽培に関する研究センターで、窒素共生菌についてのプロジェクトを行いました。簡単にまとめると、一部の植物は、空気中の窒素を植物が使える形に変換できるバクテリアと共生することができるのですが、この関係性を構築できる植物の種類が限られているため、共生できる植物の遺伝子の一部を共生できない植物(私は麦を使いました)に移したらどうなるのかという研究です。窒素は植物にとって非常に重要な栄養素で、空気中にたくさん含まれているもののそれは植物が使えない形であるため、現在は化学肥料の形で補うのが主流となっています。しかし、撒かれた肥料の中で実際に植物に吸収される割合は低いこと、また、川などに肥料が流れ込んで環境汚染につながるため問題視されています。そこで、共生菌を使ったらよりサステナブルに栄養素を供給できるのではないかというテーマの研究室で、この分野の第一人者と言っても過言ではない教授の方のもとで研究ができて楽しかったです。まさに、自分が感じていた化学肥料の問題点に対応するかのような研究ができたことが感慨深かったです。

進路について
3年生の大変なところは、講義、研究と並行して大学院の出願もしなければならない点です。私が出願した大学院と結果、気づいたこと、最終的に決める上で重要視したことなどを全て書くので、少しでも参考になれば幸いです。
まず始めに、イギリスでは、学士を取った後、直接博士課程に進むことができます。もし自分が将来どのような研究をしたいかが明確に定まっている場合は、早い段階で博士課程を取得できるので良い選択かもしれません。ただし、博士課程を受けている他の候補者は修士を持っていることが多いので、その中で合格するのはとても難しいことだと思います。そのため、私の周りを見ていても、学士の後に修士に進む人の方が多い印象を受けました。修士に進むメリットは、博士課程に向けて研究スキル、知識など様々な面で準備できることです。また、自分が本当に興味を持っている分野を絞る上で良い期間になると思います。

博士課程は、イギリスで進む場合は、コースとfunding(奨学金みたいなものです)が合体しているものとコースとfundingを別々で探さなければならないものの2つに分かれます。例えば、ケンブリッジ大学のBioscience DTPというコースでは、この博士課程のプログラムに受かれば自動的に学費、生活費などを含む奨学金がついてきます。一方で、直接大学の研究室に出願する際は、奨学金を別で探す必要があります。大学の奨学金ページで自分が応募資格のあるものを探すなどして見つけます。自費で博士課程に進むことはほとんどあり得ないと思います。一方で修士課程は基本的に自費の人が多く、奨学金の枠も博士課程と比べるとかなり少ない印象を受けました。

以上の前提をお話した上で、私が受けたコースと結果を書きます。
ケンブリッジ大学(Bioscience DTP)博士課程,奨学金一体型 (不合格)
National Institute of Agricultural Botany(CTP-SAI)博士課程、奨学金一体型 (合格)
ケンブリッジ大学Crop Scienceの修士課程 (合格)
東京大学International Program in Agricultural Development Studies修士課程 (合格)

出願は基本的に大学の成績、志望理由書、推薦状2通と面接でした。面接では、なぜ出願したのか、このプログラムで得たことをどのように活かしていきたいかという質問に加え、これまで行ってきた研究活動、最近読んだ論文で印象に残っているものなどを聞かれました。東大の面接はプレゼンがありましたが、その他は基本的に先ほど申した通りの質問に回答する形でした。

合格した中でどこを選択するかという点におきましては、コースの内容を重視しました。大学で先端的な研究内容に携わっていく中で、自分は実際に穀物を育てたことがないため、どのような技術がどのように役に立つのか、いまいちイメージがわかないことが多々ありました。また、本当に社会にインパクトを残そうとした場合、食料問題についてもっと多面的に学ぶ必要があると感じ、科学的な内容だけではなく、農業に関する経済学や政策についてなどの授業も履修できる、東京大学の修士(全て英語)に進学することを決めました。これからの修士2年間で、農家と科学者の架け橋になれるような立場になる上での第一歩を踏み出せたら良いなと思っています。


最後に、5年間サポートしてくださった財団の皆様、本当にありがとうございました。私は入学面接でWi-Fiが切れたり、大学入学後耳が聞こえなくなったりと何かとご心配をおかけしてきましたが、無事大学を卒業し新たなステップを踏み出せるのは、支えてくださった皆様のおかげです。改めて感謝申し上げます。この留学を通して得たことを活かして、目標に向かって地道に努力を続けていきます。