お知らせ

Sさん(Queen Mary University London , Medicine / Kingswood school 出身)

先日学年末試験の結果が出て、無事最終学年へ進級できることが決まりました。1年間の公衆衛生学修士課程を経て再び医学部に戻り、最初の数ヶ月は臨床の感覚を取り戻すことに必死でしたが、学業だけに留まらず、様々なことに挑戦したこの1年間を振り返りたいと思います。

今年は、産婦人科、小児科、皮膚科、整形外科、精神科、神経内科など幅広い診療科を回り、日々刺激を受けながら学ぶことができました。臨床現場では、各疾患について学ぶだけでなく、今年は、特に自分が将来進みたい道を意識しながら、各科の医師の働き方に目を向けて実習に取り組みました。産婦人科では夜勤を経験し、精神科では訪問診療に同行するなど、積極的にチームの一員として医療を体感することができました。

また、ロンドン郊外の病院で実習する機会もありました。ロンドンから離れると、時間がゆっくり流れ、医療従事者も患者さんも、どこか少し穏やかに感じられました。とはいえ、来年からの初期研修先を考える中で、私にはやはり、fast-paceで慌ただしく色々なことに挑戦できるロンドンの方が自分には向いていると気づきました。しかしながら、初期研修先は選べるようで、実はあまり選べないものなのですが…。

というのも、2024年から初期研修先の決定方法が「希望順位告知型配分」という、コンピューターによる完全なランダム順位をもとにした仕組みに変更されたためです。医学生はまず、英国全土にある研修先の地域を希望順に並べて応募します。その後、コンピューターによって学生一人ひとりにランダムな順位が振り割られ、その順位が高い人から順番に、自分の希望をもとに研修先が決められていきます。つまり、希望する地域にどれだけ行きたいと思っていても、最終的には自分のランダム順位と他の学生の希望状況によって、研修先が決まるのです。

以前は、大学の試験成績などをもとに順位が決められていましたが、新しい制度では成績による順位づけが廃止されました。そのため、2年間の初期研修先をどの地域で行うことになるかは、かなりの部分が「運」に左右されます。特に、ロンドンなどの人気都市には希望者が集中するため、ランダム順位が低いと、希望していた地域に入れないことがあります。その結果、希望順位の下の方に書いた北アイルランドやスコットランド、ウェールズの田舎の地域に割り当てられる可能性もあります。

そのため、単に「一番行きたい地域」を選ぶだけではなく、人気や競争率、自分の順位によってはどこに配属される可能性があるのかまで考えた上で、希望する地域を順番に決める必要があります。


話は変わって、昨年の修士論文に引き続き、今年は医学部の卒業論文にも取り組みました。テーマは、「ゲイツ財団の資金提供の優先分野が、現代のグローバル栄養課題の状況とどの程度一致しているか」を評価することで、栄養分野における“double burden of malnutrition”への対応のギャップを分析し、グローバルヘルス分野における効果的な栄養資金配分に向けた提言を行いました。


医学の勉強以外にも、さまざまな活動に積極的に取り組んだ一年でした。学生主体のグローバルヘルス団体であるStudent for Global Health UKのNational Working Groupに所属し、英国政府の「International Women and Girls Strategy」に対するポリシーレポートの執筆や、ソーシャルメディアを通じたウィメンズヘルスのアドボカシー活動を行いました。また、同団体の代表一員として、毎年ベルリンで開催されるWorld Health Summitにも参加しました。修士課程修了後も、公衆衛生に関わる活動を継続できていることを、嬉しく思っています。

さらに、医学・歯学カリキュラムにおけるAI活用と教育に関する大学の研究チームに、学生パートナーとして参加しました。アンケートの量的分析やインタビュー、質的分析などを通して、研究に必要なスキルを幅広く学ぶことができました。AIに対して肯定的、あるいは否定的な意見を持つ他の医学部・歯学部生の声を分析する中で、医学教育や診療におけるAIの活用について、自分の考えを改めて見つめ直す良い機会にもなりました。ポスタープレゼンテーションや学会でのワークショップ運営を終え、今は論文の執筆に向けて準備を進めています。


日本との繋がりも大切にした一年でした。欧州日本人医師会は、2006年に7名の医師で発足し、現在ではヨーロッパ12カ国から38名の医師が所属しています。今年度は、私はその青年部の代表を務めました。欧州在住の日本人医学生同士の交流をより活発にするため、新たなイベントの企画やSNS等の立ち上げにも力を入れました。ロンドンで開催した対面イベントでは、医師会正会員の先生をお招きし、貴重なお話を伺うことができ、学生同士の交流を深める充実した時間にもなりました。自分の大学の医学部には日本人がほぼいないため、ヨーロッパ各地の日本人医学部生と繋がることで、情報共有だけでなく、互いに高め合える関係を築けていると感じています。ドイツのハンブルグで開催された年に一度の総会にも初めて参加し、様々なバックグラウンドをお持ちの先生方のお話を伺いながら、自分の将来の働き方について改めて考える刺激的な時間を過ごしました。


夏休みに帰国時には、日本のいくつかの病院を見学し、英国との医療制度や働き方の違いについて、現場の先生方から直接お話を伺うことができました。将来的に、どの国で働きたいのか、何科に進みたいのか、そもそも臨床医として働きたいのか、など、まだ定まっていないことは多く、悩むこともあります。それでも、選択肢をたくさん持てること自体が恵まれていることだと思います。選択肢があることを知らない人や、そもそも選択肢がない環境にいる人がいることを念頭に置きながら、その時々で自分が一番良いと思える道に進んでいけたらと思います。


9月からは、いよいよ最終学年です。2018年に最初に渡英してから8年経ちますが、初心を忘れず、最後の学生生活を精一杯楽しみながら、医師として働き始める心の準備をしていきたいと思います。