まず、田崎財団の皆様に深く感謝申し上げます。皆様のご支援により、無事に大学を卒業するこ とができました。奨学金がなければ、ここまで勉学に専念し、成長することは難しかったと思いま す。本当にありがとうございました。
まさに光陰矢の如しで、気づけば田崎財団の奨学生となってから、コロナ禍の休学期間を合わ せれば、早6年が経過しました。 この6年間で私は、自分の人生にとってかけがえのない、貴重な学びを沢山得ることができまし た。そこで僭越ながら、最後にその一部を、振り返りながらご紹介させていただければと思いま す。
1.主体性の重要性
主体性とは、自らの意思で課題・枠組みを設定し、行動する力を指すと私は考えています。そし
て、イギリス留学を通して私はこの主体性の重要性を強く認識しました。似たような言葉として「自
主性」が挙げられますが、こちらはあらかじめ設定した枠組みに則って自ら進んで遂行する力を
指す点において区別されると考えます。
あくまで私見ですが、多種多様な文化背景を持つ人たちが共生するイギリスは原則主義が徹底 している国です。そのため、基本的なルールさえ守っていれば、細目部分については個人の自由 を尊重して、干渉しないことで社会を円滑に回しています。これに対して日本は細目主義が根強 く、様々なものを画一化することで社会を円滑に回しています。このように、両文化は社会運営に おいてアプローチが大きく異なるのですが、その結果イギリスは「主体性」を、日本は「自主性」を 重んじる傾向があるように思います。
立ち返ってみて、私は渡英するまでは自主性しか意識していなかったように思います。受験とい う目標に向かって、ただがむしゃらに受験科目の勉強をすることだけを良しとしていました。しか し、渡英してからは、自分の勉強したい科目を選び、それにしたがって選んだ大学に入ってから も、進路を見据えて課外の勉強や就職活動を個別的にやったりと、すべてが個人レベルでの判 断の連続でした。そして、それらの判断一つ一つを下す際には必ず自身と向き合い、己の価値観 とすり合わせながら前に進んできました。その結果、今では、確立した価値観の軸を持っており、 前例がないような仕事や取り組みについても、臆さず果敢に挑戦できる度胸と経験が身についた と感じています。
2.人と関わることの重要性
主体性が重んじられるイギリスでは、他者への過度な干渉はご法度とされています。そのため、
周りの人は心配していても、相手からヘルプコールを受けるまでは基本、見守りに徹します。した
がって、他の人を頼る勇気がなければ、辛い状況を一人で抱え込むことになります。
単身留学では強い孤独感に苛まれることが度々ありました。気持ちが塞ぎ込んでしまい、人と会 うことが億劫となってしまったとき、真っ先に話しかけてくれたのは同じ寮にいた友人たちでした。 彼らが普段通り私に接してくれたことで、鬱屈していた気持ちが晴れ、通常の生活に戻ることが できました。
この経験から、私は人と関わる重要性を痛感しました。家族だけに頼るのではなく、ときには周り の人の助けを借りながら生きることの重要性、そしていつか自分が助ける側になれるよう他者を 思いやる心を持つことを心がけています。
3.視野を広く持つことの重要性
批判的思考の重要性は昨今声高に叫ばれていますが、その基礎となる情報収集能力ないしは
視野の広さの重要性についての認識はあまり広まっていないように感じます。
私は渡英前は、いわゆるユーロセントリックな、欧米の価値観や歴史を主軸においた教育を受け ていました。しかし、大学にて、そういった視点を脱却しようという目的を持った授業を受けたこと を機に、新たなレンズを通して世界を見ることができるようになりました。そしてそのレンズを通し て世界を見ることで、今まで当たり前だと思っていた価値観が大きく変わることとなりました。
中でももっとも印象的だったのが、大学3年時の開発経済学の授業で取り扱った、アフリカ諸国 における所有権と経済発展の関係についての問題点でした。西欧的価値観で言えば、財産権と して排他性を有する所有権は、経済秩序形成におけるもっとも根源的なものの一つといえ、経済 発展には不可欠な存在です。しかし、農地を代々、村の共有物として管理し、運営してきた地域 で排他性を有する所有権を認めることはかえって小作活動を抑制し、経済活動を害する可能性 があるため、地域実情に沿った新たな所有権概念を策定する法技術が必要である、という意見 があることを私は知りました。このような視点の存在について気付いたことで、今まで見えていな かった、「もう半分の世界」を少し知ることができたように感じられました。
従来の視点や価値観を鵜呑みにするのではなく、その根底にある常識を疑い、論理的に問いた だしていくことでより正しい、的確な結論に至ることの重要性を痛感しました。
以上3点が、私が渡英中学んだことの中でも特に重要だと考えているものです。他にも学んだこ とは沢山ありますが、挙げれば枚挙にいとまがないため、今回は上記3点とさせていただきまし た。
最後に、改めまして、田崎財団の皆様、またここまで私を支えてくださった家族や友人にお礼を申 し上げます。今後は社会人として少しでも皆様のお役に立てるよう、全力で邁進してまいります。
長年に渡る厚いご支援、本当にありがとうございました。