お知らせ

Iさん(University of Cambridge, Engineering / Kingswoodschool 出身)

二年間のパブリックスクール生活を終え、今年秋から大学生活を始めました。私は今ケンブリッジ大学の工学部、そしてLucy Cavendish Collegeに在籍しています。

今学期はコロナの影響で様々なことがイレギュラーな状態で始まりました。まず、講義や新学期のイベントはほとんどオンラインで行われました。また、行動はhousehold、同じ寮の建物に住んでいる人達ごとに制限されるため、違うカレッジの人達とはおろか、同じカレッジ内でも違うhouseholdと交流する時も気を使う必要がありました。大学内では、学生は無料で週一回の抗体検査のプログラムに参加できるため、毎週これに参加し、よかった今週も健康だ!と日々を過ごしていました。

私が所属しているLucy Cavendish Collegeは女子のみのカレッジで(2021年度からは男女共学)、工学部生が私一人しかいません。私のhouseholdは私含め10人です。私のほかは歴史学や土地経済学などの人文科学を専攻している人がほとんどです。イギリス出身の人が主ですが、留学生も何人かいます。流行りのドラマについて盛り上がったり、キッチンでココナッツの実を工具を使ってかち割る現場に立ち合ったりしました。週末、コモンルームで飲みながら、自分が小学生の時に劇でザリガニ役をやったことを話すこともありました。生活スペースには同じ学部の人も同じ文化背景の人もいません。
しかしだからこそ、勉強を時にストレスフルに感じても、一歩自室から出たときによりリラックスできる環境のように感じます。ふと似たような感覚に陥ったことがあると思い、振り返ると、大学受験前のサマースクールの時だと気づきます。その当時私は初めてKingswood以外の学生と関わり、関係を構築するという経験をしました。当時のレポートに、全員が初対面で、それぞれの経験を目一杯充実したものにしようとするからこそ、お互いを一個人としてみなし、隔たりなく関係を築けるのではないかとも記しています。今読むと、自分でも多少の強がりが垣間見えますが、現在身を置いている生活スペースがそういった意味で快適な理想に近いのではないかと思います。

私の在籍している工学部は一学年300人超で比較的大きな学部です。イギリス人はもちろん、学部柄、アジア系やインド系の学生が多い印象を持ちました。 今学期は数学、力学、電子学、構造学の4つの主な科目の履修に加え、プレゼンテーションなどの練習をする少人数クラスや実験がありました。以下は今学期の実際の時間割の一例です。今年度は感染症対策のため、*の講義は事前に録画されたものを視聴する形式でした。

月曜日
9:00-11:00 プレゼン少人数クラス
11:00-12:00 数学講義*
12:00-13:00 力学講義*
18:00-19:00 電子学supervision

火曜日
9:00-10:00 Engineer in society 講義*
10:00-11:00 力学講義*
11:00-12:00 実験

水曜日
9:00-10:00 電子学講義*
10:00-11:00 構造学講義*
12:00-13:00 数学講義*
17:00-18:00 数学supervision

木曜日
9:00-10:00 電子学講義*
10:00-11:00 Engineering applications 講義*
13:00-14:00 構造学supervision

金曜日
9:00-11:00 実験
11:00-12:00 構造学講義*
12:00-13:00 数学講義*

ケンブリッジ大学では教授による講義に加え、各科目に隔週のsupervisionという1対3程度の個別指導があります。私のグループを担当しているsupervisorの4人はそれぞれ各分野のPhDの学生でした。事前課題としてトピックごとの過去問を解いていく必要があり、常に課題に追われているような感覚です。supervisionではわからなかった箇所を聞いたり、それを解くにあたり要される理論を深掘りしたりします。事前録画の講義は一方通行で受動的になりがちであるのに対し、supervisionはすぐに質問でき、アウトプットできるため、理解が深まります。

主要4科目の講義とは別に今学期はEngineer in societyとEngineering applicationの講義がありました。Engineer in societyは”Tech knowledge is necessary but not sufficient”という大きなテーマのもと、エンジニアは社会にいかに変革をもたらすか、またコロナ禍においていかに社会に関われるかなどについてその道のプロフェッショナルのお話を聞くというものでした。理系学部であり、普段講義で学ぶ内容がどれもいわゆる“社会生活”から離れているため、倫理的にエンジニアが実生活でどのような役割を担っているのか、担うべきなのかを考えさせられ、実に興味深いものでした。Engineering applicationは昨年までの生徒や教授の実際のプロジェクトや研究についてビデオで紹介するものでした。この学部では3年次に専攻分野を決め、グループプロジェクトに携わることになります。研究の現場に関わっている様々な方たちの話が聞くことは自分がどのような分野に2年後に進みたいかを考える上でとても有益と感じました。

講義はコロナの影響でオンラインでしたが、幸運にも実験は全て学部棟で対面形式により行われました。数名ずつの実験グループ間でソーシャルディスタンスを保つ、またグループごとに開始時間をずらすという措置が取られました。今学期最も記憶に残っている実験はMachine tool labという部品製造に関わるものでした。これは2名程度の実験グループに教授が一人ついて行われるのですが、私は自分の属しているカレッジで唯一の工学部生であったためかペアリングの学生の指定がなく、2時間ぶっ通しで先生に一対一で切断機などの使い方を手取り足取り教えてもらえました。集中力を要する作業が連続し、とても疲れましたが、完成したパーツを持って帰る際には楽しかったなあという高揚感と満足感が上回っていました。

冬休みに入るにあたって、先生方がメリークリスマス!ちゃんと休みにはリラックスしてね!と言いながら、課題をしれっとドバっと出した時は、勘弁してくれと仲間内で軽く愚痴をこぼしました。加えて、休み明けには試験があります。進級には関係しない模試ですが、真剣にやれよとカレッジの工学部の先生にやんわり釘を刺されました。勉強を常に楽しいと思える余裕などとうになく、溺れそうになりながら辛うじて息継ぎをし、ぶつぶつこぼしながら過ごす大学生生活を満喫しています。今ある環境、ならびに支えてくださっている財団の皆様や家族に感謝の気持ちを忘れずに努力を続けていきます。