
一年前の8月、今の自分の姿は全く想像していませんでした。
そもそも、海外の高校に留学することはおろか、自分が将来何をしたいのかさえ、ほとんど考えていなかったと思います。
勉強は好きでした。数学の問題を何時間も考えたり、興味を持ったことを調べたりすることも好きでした。でも、「それを将来どのように生かしたいのか」と聞かれると、確かな答えはありませんでした。
とりあえず勉強する。とりあえず高校に行く。そして、とりあえず大学に行く。
今振り返ると、そんな「とりあえず」の人生を送っていたのだと思います。
Tazaki財団を知ったのは、昨年4月、財団の先輩が学校に来てくださったことがきっかけでした。海外で生活し、学ぶ先輩の話は強く印象に残りました。ただ、その時は「こんな道もあるのだな」と思った程度で、まさか一年後に自分がスコットランドに向かうことになるとは思ってもいませんでした。
それから数か月経った9月頃、「自分も応募してみようかな」と思い始めました。
明確な覚悟があったわけでも、「絶対に留学したい」という確信があったわけでもありません。正直に言えば、「いちかばちか、挑戦してみよう」という気持ちに近かったと思います。
ところが12月、本格的に志望理由を書き始めたところで、思わぬ難問にぶつかりました。
自分自身です。
「なぜ海外へ行きたいのか。」
海外の大学へ行きたいから。
「では、なぜ海外の大学へ行きたいのか。」
世界の最先端で学び、さまざまな国の仲間と出会い、いつか自分の学んだことを世界の役に立てたいから。
「では、なぜ最先端の研究をしたいのか。」
一つ答えるたびに、また次の「なぜ」が出てきました。
普段なら数学の難しい問題を考えることは楽しいのに、自分についての問題となると、驚くほど答えが出ません。
それでも、書いて、考えて、消して、また考えることを繰り返しているうちに、それまで自分の中にぼんやりと存在していたものが、少しずつ言葉になっていきました。
自分は、やはり学ぶことが好きなのだということ。
まだ答えのない問題を考えることが好きだということ。
数学や物理をもっと深く学びたいということ。
そして、せっかく学ぶのであれば、いつかそれを自分だけのものにせず、世界に還元できる人になりたいということ。
新しい自分を発見した」というよりも、今まで散らばっていた自分自身の断片を、一つずつ拾い集めて整理していった、という感覚の方が近いかもしれません。
そして、忘れられないのが最初の面接です。
面接室に入ると、面接官が5人。その中には田崎理事長もいらっしゃいました。
緊張しました。
というより、緊張しすぎました。
頭が真っ白になり、最初の自己紹介で自分の名前をなぜか二回言ってしまいました。
自分の名前すら一回で言えないという、なかなか幸先の悪いスタートです。
しかも目の前には真剣な表情の面接官の方々が並んでいて、内心「これはまずい」と思っていました。そんな中、田崎理事長が冗談を言って場を和ませてくださり、ようやく少しずつ話せるようになりました。
それでも面接が終わった時には、「あ、落ちた」と思いました。帰り道では、本当に泣きました。
数日後、結果のメールを恐る恐る開くと、そこには一次選考通過の知らせがありました。
ものすごく驚きました。
同時に、その頃から自分の中で何かが変わり始めた気がします。
「せっかく次のステップへ進めたのだから、自分も変わらなければ。」
そう思い、そこからは毎週一度も休まずBritish Councilへ通いました。英語の勉強にもそれまで以上に力を入れました。そして何より、面接を重ねるたびに、「自分は何をしたいのか」「何が得意で、何が苦手なのか」「これから何を変えなければならないのか」を考えるようになりました。
最終面接の日、もちろん緊張はしました。しかし、最初の面接のときとは明らかに違いました。
完璧な将来設計ができていたわけではありません。それでも、自分が今どこにいて、何に興味を持ち、これからどのような方向に進みたいのかを、自分の言葉で話せるようになっていました。
数か月前、自分の名前を二回言っていた人間と同一人物とは思えないほどでした。
そして、合格の知らせをいただきました。
本当に嬉しかったです。
今になって思うと、Tazaki財団から最初にいただいたものは、英国へ行くための支援だけではありませんでした。
応募しなければ、私は今も「将来のことは、いつか考えればいい」と思っていたかもしれません。
選考のために何度も自分自身と向き合ったことで、私は初めて、自分の人生を「とりあえず」ではなく、自分で考えて選ぼうとするようになりました。
そして今、いよいよ9月からスコットランドでの生活が始まります。
もちろん、不安はあります。
これまで親に任せていたことも、これからは自分で判断しなければなりません。家族から離れ、言語も文化も違う環境で生活します。勉強についていけるのか、友達ができるのか、自分一人できちんと生活できるのか。考え始めれば、不安はいくらでも出てきます。
でも、不思議と今は、それ以上に楽しみです。
これまで会ったことのない人に会い、知らなかった考え方や文化に触れ、今まで日本から眺めていた「世界」を、実際にその中へ入って見てみたいと思っています。
学業では、自分の好きな数学や物理をはじめ、興味のある分野をとことん掘り下げたいです。一方で、勉強だけで二年間を終わらせるつもりもありません。さまざまな活動に取り組み、たくさんの人と話し、スポーツにも挑戦したいと思っています。とりわけ、好きなスクワッシュを英国でできることは、今からかなり楽しみです。
失敗もたくさんすると思います。
英語が聞き取れず困ることも、文化の違いに戸惑うことも、勉強で打ちのめされることもあるでしょう。
でも、それも含めて留学なのだと思います。
二年後、「英語が上手になった」「勉強ができるようになった」というだけではなく、自分で考え、自分で決断し、その決断に責任を持てる人間になって帰ってきたいです。そして、世界中の人と関わる中で、自分の世界をできる限り大きく広げてきたいと思います。
一年前の私には、明確な夢がありませんでした。
今も、人生の最終目的地が完全に決まったわけではありません。
それでも以前とは違って、「いつか考えればいい」とは思っていません。
分からないなら考える。興味があるならやってみる。失敗したら、そこからまた考える。
そうやって、自分の人生を自分でつくっていきたいと思えるようになりました。
その最初の大きなきっかけをくださったTazaki財団の皆様、留学を応援してくださった先生方や友人、そして最後まで支えてくれた家族に、心から感謝しています。
いただいた機会を「与えてもらった二年間」で終わらせず、自分から飛び込み、自分なりの二年間にしてきます。
それでは、行ってきます。