
最近、ひとり路上観察会を始めました。朝散歩に出たり、外出している最中にふと思いついたりして行っています。道端の街路樹や草花、掲示板、アパートメントや一軒家など、目に入るもの全てに普段よりも注意を払い、興味をもったものを写真に撮って、感じたことをメモするのです。夏休み半ばに受講したPre-A Level講習(英国の高校に編入後、現地の教育課程 A Level に順応するための準備)のオンライン授業で、アートの先生から「建築や都市に興味があるなら、日本にいる間に、住んでいる街の様子を写真に記録したら?ドキュメンタリーの材料として役立つかもしれないよ」というアドバイスをいただいたことがきっかけでした。パッキング、数学や物理の予習、部屋の整理など、やりたいことが色々とある中、東京観察は今しかできないと思い、実行に移したのです。
私は、ランドスケープアーキテクトとして、日本の都市に緑地を増やし、ヒトだけでなく他の生き物も住みやすい場所にしたいと思っています。小学5年生のとき、建築家である伊東豊雄先生主宰の子ども建築塾に通い始めたことが大きな転換点でした。
「本当に四角い家に住みたいの?」
「あなたの作った模型のここでは何をしたい?」
という問いに返す言葉を必死で考える中、自分が本心から暮らしたいのはどのような場所だろうか、と自然と思いめぐらせるようになっていました。ふと自分の住む地域を見渡すと、東京の街はなんて殺風景なことでしょうか。あたり一面コンクリートで覆われ、高層ビルの窓ガラスが灼熱の太陽の光を跳ね返しているのが見えるだけ。小学生である自分が外で思いきり駆け回れる場所もなく、公園もルールばかり。じりじりと家の中へ追いやられているようで、行き場がなくて窮屈だと感じた5年前のやるせなさは忘れません。
『数十年後の東京は、今よりさらに灰色の壁と電光掲示板で埋め尽くされ、空中にも縦横にケーブルや道路が走るようになるのだろうか?数百年後も?』
想像したとたん、身震いがして「そんな将来はいやだ」と思いました。そのときから、自然環境から隔離されて過剰に保護された生活を、目指さなくてもいいのではないかと考えるようになったのです。
高校生になり、都内の緑環境の成り立ちを調べる中で、イギリスの都市計画の歴史を知ったときには驚きました。200年以上前から、市民の生活に欠かせないものとして、政府が市街地に今でも残る数々の公園を整備しています。市民有志で行っている活動も多く、日本とは異なる自然環境への向き合い方を感じました。
去年12月に応募書類を提出してからは、自分の未熟さを思い知る日々の連続でした。特に、2月に始まった語学研修では、まわりの研修生たちの博識さと鋭い意見に圧倒されるばかりで、毎度帰るときには駅のホームをうなだれて歩いたことを覚えています。そのような数か月が過ぎるにつれ、二つの大切なことに気づかされたのです。一つは、大学まで待たなくとも、自分でいくらでも学びを深められること。生物学や物理学、経済学などの専門知識を自ら身につけ、研究をしているクラスメイトたちの中で、誰かに教えてもらうことを待っていた自分の受け身態勢が恥ずかしくなりました。もう一つの気づきは、人との関係は川の流れのようであることです。毎週の語学研修の授業も7月に終わりを迎えました。私はわずか半年の間に大きな刺激を受け、知り合うことのできたクラスの人たちと別れることが信じられず、頭の中にあったのは授業が終わらないでほしい、ということばかりでした。しかし、他の研修生たちはさっぱりとした別れ際で、振り返らずに夜の飯田橋の横断歩道を渡っていく後ろ姿が印象に残りました。なぜだろうかと考えた末、この半年のようにこれから先も様々な人と会えることを知っているのかもしれない、と思ったのです。確かに、今時点で知っている人との関係にとどまらずに、次へ進もうとするから新しい出会いがある。「方丈記」の冒頭に深く共感しました。
まだ渡英していないのに、すでにこんなにも大きな学びがあるとは、9月以降の自分はどのように変化するのかまるで想像がつきません。ただ、どのような生活が待っていようと、高校を卒業する2年後までにやりたいことが一つだけあります。それは、どのような形であれ、ヒトが虫・鳥・草木など他の生物との生態系の一部になり、助け合うことで互いの暮らしが成り立つ場を、必ず自分の手を使ってつくることです。コンポスト作りかもしれないし、水辺の整備をして野生動物の生息地を再生するボランティアかもしれませんが、できたら誰もまだ試したことのない方法を実践したいです。それによって、今までは資源を消費するだけで、環境を破壊することしかしてこなかった自分の生活を、少しでも変えたいと感じています。
現在の私は、自分の人生経験の乏しさと今年になって思い知った自分の未熟さゆえに、白紙も同然です。だからこそ、どんなこともありのままに受け入れて、吸収していこうという心構えでいます。スコットランドの伝統料理Haggisも、羊肉だからと臆することなく思い切って頬張るつもりです。自分の体を使って経験し、行動することが大事だと、去年の秋に行った「のと復興留学」で、大工でありNPO法人「紡ぎ組」の代表である佐藤さんから聞いたからです。「政府は、食糧支援をすると言って土砂崩れの危険のある崖の下を住民に車で走らせた。私たちは、能登の人がまた農業ができるよう作物の苗を育てて配った。本当に意味のある行動をするには、現場にいて、そこに住む人と長年一緒に生活するほどの覚悟と時間が必要なんだよ。」夕食の席で目の前に座っていた、日焼けし長身の佐藤さんから発された言葉は、胸に刺さりました。
かけがえのない留学の機会をくださっている田崎理事長、そして財団の皆さま、本当にありがとうございます。エジンバラの街、そこですれ違う人々、街を囲む自然、学校と寮など、身の回りのすべてが何物にも代えがたい教材です。まずは、エジンバラに到着したその日から、自分の足で様々な場所を訪れ、路上観察をし、多くの人と会話して、身体を使って実体験を積み重ねていきます。
英国の地に降り立って初めに見る景色は、いったいどんなものなのでしょうか。