お知らせ

Sさん(女生徒)都立白鴎高等学校出身

 思えば秋に限りなく近い夏に始まった今学期でしたが、秋を一瞬で通り越して、再び長い長い冬がやってきました。学校生活もようやく落ち着き、安定した生活を送れるようになったと感じています。今年は去年と比べて校内で鴎を目にする機会が増えたような気がして、この感覚の精度を確かめるために、West Sussexにおける鴎の個体数の変動を調べてみました。しかし、技量の問題か、具体的な数字を見つけるに至りませんでした。一方で、調べる段階で非常に興味深いものを目にしました。イギリスでは市民参加型生態学調査の制度が整っており、British Trust for Ornithologyなどの組織により、市民が、アプリを通して観察した鳥の記録を報告できるプラットフォームが運営されているようなのです。普段の生活での目撃や、趣味が学術的なデータとして蓄積されていく仕組みに感心しました。
 イギリスは鴎の多い国ではないでしょうか? サマーコースで滞在したエジンバラの街にも、人間よりも多い程の数の鴎が生息していました。家々が人口の段崖として機能しており、捕食者が少なく、安定した繁殖に適しているので、営巣地に都市を選ぶ個体が増えているそうです。都市部の食料源が問題なのではないかとも言われていますが、調査によると、人間の食べ残しは「おやつ」程度で、食料のほとんどは依然として海由来だそう。鴎は一日30−50キロメートル移動できるため、通勤スタイルをとっているようです。

 これをきっかけに、都市生態学を少し勉強してみました。例えば、チェルノービリに見られる人工物と生態系の融合や、都市部で却って生物多様性が高くなる場合があるといった事例は、私の中の(恐らく都市で育ったという経験が齎した)「人工物」と「自然」を両極端なものとして捉える感覚に反しており、とても興味深いと思いました。
 ところで、オランダの生物学者ニコ・ティンバーゲンの「4つのなぜ」は、生物学的な疑問を、
直接的な原因を問う<至近要因>である
①機構:どのようなメカニズムによって生じているか?
②発達:成長に従いどのように獲得されたか?
と、究極の理由を探る<究極要因>である
③機能:どのような意味があるか?
④進化:進化の過程でどのように獲得されたか?
に分けています。これに当てはめると、これまで私の興味は「発生生物学」のような、ミクロな視点での生物現象のメカニズムの解明(①機構)が中心でしたが、最近は、「行動生態学」のような、他の生物や物理的環境との相互作用というマクロな視点での行動の意味(③機能)の解明にも、楽しさを感じ始めているということになります。いわば、「木を見て森を見ず」から「木を見て森を見たくなる」になった、と言ったところでしょうか(生物だけに)。人間の作った物や概念を対象とする学問では、大きな枠組みから細部へと展開させていくことが多い一方、生物学では、自然界で細部に分かれた現象を再び大きな枠組みに収めて考える点に、他の分野にはない魅力があると感じました。 

 「緊急銃猟/クマ被害」が2025年の流行語大賞にノミネートされるなど、人間と自然の関係性に関して考える機会が増えています。そのような中で、鳥の行動を身近に観察できる自然に恵まれた学校に通えていること、そしてイギリスと日本の両方の環境を感覚として持つ贅沢な機会を得られていることに、深く感謝申し上げます。