
留学から早 2 年、無事に A-level を修了し、 Kingswood School を卒業しました。入学直後は人生で一番周りの環境が変わった時間で、一体自分はやっていけるのだろうか、と思うこともありましたが、思いの外すぐに慣れ、時間は飛ぶようにすぎていったように思います。つい気後れしがちな私にもいつも仲良くしてくれた友人、多くのインスピレーションを貰った教員の方々、また暖かく迎え入れてくださったホストファミリーに支えられての 2 年間でした。ふとしたときに自分の成長を感じるととても嬉しいです。些細なことですが、例えば英語力でいえば、友人とイギリス、アメリカ、そして日本の議会制度やその歴史について話したときなど、自己紹介にも覚束なかった頃には考えられなかったな、と感慨深くなりました。
はじめ財団に応募したとき、私は数学と CS の共同学位のコースに一番惹かれていました。それが、Year 13 が始まり受験先を決める段階で、数学のみを学ぶコースに出願することに決めました。この選択をした一番大きな理由は、結局学部を終えて何かしたいときに必要なのはドメイン知識であり、学部で得るスキルや知識それ自体よりも、大学で身につける未知の対象への向き合い方、学び方が最も大事だと考えたことです。そこで、では自分が興味のありそうなことを一番の純度でできるコースを選ぼう、と思っての決断でした。
前のレポートは 12 月でしたが、 3 月頃には大学からのオファーが出揃い、またイースター休暇が終わって半月もすると、学校での授業はなくなり本試験まで各自で勉強する期間に移り変わりました。この時期はどうモチベーションを維持するかというのが問題になるのですが、自分のオファー要件の場合数学と僅かな物理だけしていれば良いというのがある種単純、かつ STEP (数学の追加試験) は問題も作業的ではなく頭を使うことができるので、気が楽でした。幸運にも Kingswood にはシックスフォームの生徒のみが使えるカフェがあり、私はそこに朝から晩まで入り浸っていました。勉強ができる静かな空間でありながら、たまには外に散歩に行ったり、休み時間には一つ下の学年の子たちが通って話しかけてくれたりするので、人との関わりを丁度良く維持しながら学習に集中でき、とても良い環境です。毎日カプチーノばかり飲んでいたのですが、たまにスタッフの方から余ったスイーツをご厚意で頂くこともあって、また試験に行く時は激励していただき、その度に嬉しかったです。
また学校外では、英国の情報オリンピックにもう一度参加しました。国内だけでも去年から大会を通じて知り合った人が多くいて、大学の面接の際は去年学生チューターをしてくださっていた方と当日会って励ましていただいたこともありましたし、そこで出会った友人からはハッカソンを誘っていただいたりと (夏なので乗れなかったのですが) 、改めて貴重な機会だったと思います。今年は合宿で規定数を超えた参加者が満点を取り、追加でオーストラリアの選考問題を用いたコンテストが開かれるといった珍事がありつつも無事通り、8 月にウズベキスタンで開かれた国際情報オリンピックに英国代表として出場しました。結果は二度目の銀賞という悔しいものになりましたが、それ以上に同じ興味を共有する世界中の生徒と出会えることに大きな価値があったと思います。ルーマニアやオーストラリア、ドイツなど、いくつもの国に 10 月からの同級生がいたことも嬉しかったです。余談ですが、 A-level や STEP の試験結果は競技の二日目に発表されることがわかっていたので、それまでは周りも競技に緊張する中、更に皆で戦々恐々としていました。
折々に話していることですが、留学において一番価値のあることは、新しい物の見方に触れ、自分が絶対的だと思っていた日本でのそれを相対化できること、そして全く異なる経験を持つ人と共同作業する経験を増やすことだと考えています。AI 技術が進歩し、個々が出来ることがどんどん増えていく一方で、同時に人々の思考や表現の仕方は無意識に均質化されていくでしょう。そうすれば、人類の集合知、或いはそこまで行かずとも集団で生まれる発想は逆に狭まっていくかもしれません。だからこそ、多様な人々が異なるアイデアを持ち寄る重要性が増します。そして、留学はそれを身をもって練習する一番の道だと感じました。
数学の中では、純粋数学や理論物理というよりかは、確率と統計に関する分野や、機械学習の理論に最も興味を持っています。ただ、どのような道に進むとしても、様々なトピックで色々な論理技法の感覚を身につけることが大事なので、できるだけ広い分野を学び続けたいです。また CS 学科の内容も、興味のあったり数学と深く関わる分野については、自習したり講義に出たりしようと思っています。他、大学での繋がりは特に一生物で、また同じ分野に進む人も出てくるでしょうから、人との繋がりを一層大切にしていきたいです。
産業界では LLM のアラインメント問題、特に Mechanistic Interpretability と呼ばれる分野の研究に興味があります。英国にいた 2 年間は AI の数理的な能力が高速に発展するのを見た時間で、人間より遥かに高度な知能を持った AI エージェントが同時に数百万単位で電子世界に存在する、そんな未来に強い危機感を抱くことが増えました。一方、業界の最先端を行く企業には競争圧力がかかるという構造的な問題があり、自分がどのように向き合っていけば良いのかわからなくなります。歯痒い思いをすることもあるし、それらの研究に関わることは社会に正の影響をもたらすと信じる一方で、あまりに多くの資源と人材が注ぎ込まれている分野において、海からバケツで水を掬うようなものであるという無力感もありました。もしかしたら研究だけでなく、政策や世論の方面からのアクションが必要なのかもしれません。
10 月からは、ケンブリッジのトリニティカレッジで数学を専攻します。この 2 年間、高校生活を様々な点で支援していただいた Tazaki 財団の皆様に、心より感謝申し上げます。大学では学問に力をいれるとともに、人との繋がりを大切にして、初心忘れず過ごしていきます。また、財団の内外限らず、日本に関係する多くの先達に相談に乗っていただき、助けられました。ここで改めて感謝するとともに、自分も未来へ繋げていきたいと思います。