お知らせ

Sさん(男生徒) 国立筑波大学附属駒場高等学校

前回のレポートを書いてからの 4 か⽉は、イギリスに来てから最も充実した期間だったように思う。

Kingswood では 5 ⽉のハーフターム明けに試験があり、その結果が⼤学に提出する予想成績をおおよそ決める。最 終的には必要な成績を取ることができたが、試験対策はかなりのプレッシャーであった。終わってみた感想として は、物理は定義をしっかり理解していれば⼗分であるのに対し、CS で⾼得点を取るには過去問を多く解き、採点基 準が何を問ているのかを半ば暗記するような対策が必要だった。

試験の翌週には学校全体の職業体験週間があった。私は知り合いの⽅の勤める会社のチームに 4 ⽇間参加し、 GPU クラスター内のスイッチの開発に関わった。NDA があるので⼤まかな説明となるが、初⽇はネットワークの低レイヤ ーの局所的な部分について集中的に知識を叩き込まれ、その後⼀つの機能を任せていただき、デザインの変更、コー ドレビューやコードベースへの最終的なマージといった、アジャイル開発における⼀通りの流れを経験することがで きた。とても貴重な経験であり、今年のハイライトの⼀つとなった。

6 ⽉末には、イギリス代表団 (個⼈競技) の⼀員としてイタリアで開催された⻄ヨーロッパ情報オリンピックに参加し た。同じ分野に興味を持つ他国のチームと交流できたことは貴重な機会であった。競技では幸運にも 1 位を取ること ができたので、その点でも良い結果であった。

7 ⽉にはボリビアのスクレで国際情報オリンピックがあった。数年の間、夢⾒つつも阻まれてきた舞台であったか ら、何だか感慨深い気持だった。これについて詳しく書く。

1 ⽇⽬: フライトは⾮常に⻑く、Heathrow - Madrid - Santa Cruz - Cochabamba - Sucre という経由で、合計で およそ 30 時間の⻑旅だった。早朝にコチャバンバ空港に到着した時は、気温が 3 度ほどととても寒く、遠くの⼭に かむり雪が⾒えたこともあり、まるでスキー場に来たかのようにも思えた。幸いにも、イギリスチームにはロストバ ゲージやイミグレーションでのトラブルはなかったが、いくつかのチームは国際関係やビザの問題から参加できなか ったことを聞き、ここ数年の世界情勢の悪化や⽣まれた国の不平等を感じる。スクレはボリビアの憲法上の⾸都であ り、街⾃体が世界遺産となっている美しい古都である。街全体の建物が⽩で統⼀されており、その雰囲気はどこかバ ースにも似ていた。イベント⾃体は翌⽇からであったが、多くの国のチームはすでに到着しており、イギリスチーム はドイツチームと観光をした。標⾼は 3000 m ほどあったが、階段の昇り降りをしない限りは息苦しさを感じなかっ た。

2, 3 ⽇⽬: 開会式と公式エクスカーションがあった。ボリビア⼤統領のスピーチがあり、残念ながら⾮常に退屈だっ たことが印象に残っている。ボリビアはスペインの植⺠地であった歴史からスペイン語が⽤いられており、また少な くない国の代表団がスペイン語を話せていたことから、その歴史的影響の強さを実感した。⽇本チームには友⼈もい たため、それぞれの近況を語り合ったりした。競技の実環境を確認するプラクティスも⾏われ、インドネシア⼤会か ら続く名物であるバナナカード (競技中に札を上げると、係員がバナナを届けてくれる!) があった。⽔、チョコレー ト、トイレ、追加の計算⽤紙、マシントラブルのヘルプに対応するプラカードもあり、競技中は追加の⽤紙カードを 多⽤することになった。⾯⽩いので持ち帰りたかったが、荷物が⼀杯になってしまい叶わなかった。

4 ⽇⽬: 競技の 1 ⽇⽬があった。難しいと思っていた問題が実際には多く解かれており、⾃分はかなり悪い結果となっ た⼀⽅で、⾃分より数段実⼒が⾼いと思われるようなコンテスタントも少なくない数が失敗しており、波乱の⽇だっ た。部屋のシャワーの 1 つが⽔しかでなくなるハプニングもあった。

5, 6 ⽇⽬: 精神的に⾮常に⾟い間であったが、競技 2 ⽇⽬で挽回できるよう努めた。競技⽇の間に挟まれたエクスカ ーションは良い気持の切り替えになった。残念ながら 2 ⽇⽬も特筆するほどの良いパフォーマンスは出せなかった。 また、 1 ⽇⽬の反省から、考察に時間を注ぎコードを書くのを後回しにしていたが、その結果最後の⽅にかなり焦る ことになってしまった。ただ終了 8 分前の提出で点数を上げ、銀メダル圏に⼊ることができたのは良かった。競技後 にポップコーンを⾷べながら各国の参加者と解法について議論したのは、まさにオンサイトコンテストの醍醐味だっ た。スポンサーブースもあり、特に OpenAI による AI を⽤いた科学研究の加速に関する講演が興味深かった。

7 ⽇⽬: 閉会式があった。基本的には他国の代表と交流して過ごした。彼らの進路についても聞いた。MIT を始めとし た⽶⼤学が⼈気であった⼀⽅で、あと数年続くであろう政治状況から、アメリカは避けたいと話していた⼈も多かっ たと思う。今年の英国⼊試の競争率が⾼くならないか、不安になった⼀幕だった。お⼟産としてポンチョという⽻織 のような服を⼿に⼊れたが、これがとても快適だった。また 2028 年が⽇本⼤会になると告知されたので、その時イ ギリスチームと何らかの形、例えば随⾏員として関われたら良いなと思った。

8 ⽇⽬: イギリスチームはラパス経由での帰国となった。ラパスはボリビアの実際の⾸都で、私達はそこで⼀晩泊まる こととなった。標⾼が 4000 m と息苦しかったことに加え、治安もあまり良くなかった。その後経由したサンタクル ズにも滞在したが、そこは空気汚染の問題を感じた。良い点としては、ボリビアの滞在を通じて⾷事はイギリスより も美味しく、また飲み物も豊富にあったと思う。マドリードに到着し、⾷事の値段が⽂字通り桁違いなことに気がつ いたとき、旅の終わりが強く感じられた。合計で 48 時間の⻑旅であったが、イギリスチームで過ごす時間はとても 楽しかった。

⻄ヨーロッパと国際情報オリンピックは総じてとても楽しく、濃密で、勉強することの多い機会だった。来年もキャ ンプでの成績が良ければ参加できるので、⼆連覇とリベンジを果たしたい。

情報オリンピックの後は、休む間もなしに TOPS に参加した。レクチャーについていえば、 CS の授業ではコンパイ ラの最適化や計算模型について学び、とても⾯⽩かった。9 期の語学研修⽣に加え、同期の友⼈やサポーターとして いらした先輩とも会話が弾んだ。皆それぞれの分野で全⼒を尽くしており、⼤きく刺激を受けた。

来⽉からはいよいよ⼤学受験が始まる、というところで、実は進路に迷いを感じている。Tazaki 財団を受けた当初 は、 Oxford の Maths & CS に⾏きたいというぼんやりとした思いがあったが、コンピュータへの興味は間違いのな い⼀⽅で、私が⼀番⾯⽩いと感じるのはコンピュータを活⽤して役に⽴つ数学の理論であって、 CS で扱うコンピュ ータ⾃体の理論ではないのではないかという感が否めない。イギリスの数学科は⽇本のそれよりも扱う範囲が広く、 それこそ ML 的な分野まで⼿を出すことができる。

研究の⾯では、数学から CS への転向は理論系分野においては⽐較的可能なのに対して、 CS から数学というのはあ まりなさそう。尤も、数学科と Maths & CS でのメリットとデメリットは 50:50 という感がする。アカデミアでは なく社会に出たときの仕事の機会の⾯でも、どちらかが⼤きなディスアドバンテージとなるような職種はなさそうに ⾒えるので、結局のところはどちらを選んでも後悔することはないのだと思う。幸い、パーソナルステートメントは 何を受けても似たようなものになるので、もう少し悩みたい。

今学期は、同期の 2 ⼈にも⼤きく刺激を受けた学期だったと思う。8 ⽉末には 9 期⽣を迎え⼊れ、遂にイギリスでの 1 年が終わったのだと思うと不思議な気持がする。彼らは、イギリスに来たときの⾃分よりもだいぶ⼤⼈びているよ うに感じた。また 1 年間⼤きく助けや刺激を頂いた 7 期⽣の先輩⽅がもういないことには、幾許かの不安も感じる。 来学期からも、⼤学受験がうまくいくよう、また後悔のない最後の 1 年になるよう、頑張りたいと思う。