
2年間のパブリックスクールでの生活を終えて帰国し、早くも3週間が経ちました。A Level試験に向けた慌ただしい日々から解放され久しぶりにゆっくりとした時間を過ごす中で、2年前、英国へ出発する直前にTazaki財団へ提出したレポートを読み返しました。
当時の私は、緒方貞子さんの
「危機や難局というのは、乗り越えるためにある。何でも見てやろう、何でもしてやろう。そのことで、自分の視野は広がる。」
という言葉を引用し、「最後までやり抜いたものが勝つ」という信念を胸に英国へ渡りました。未知の環境に飛び込み、一つひとつの経験に全力で挑戦しながら自分自身を成長させたい。そして、一生に一度の英国生活を思い切り楽しみたい。そのような思いで2年間をスタートさせました。
今振り返ると、この2年間はまさにその言葉を体現する日々でした。慣れない環境での生活や学業、課外活動、そして Head Girlとしての役割をはじめとするリーダーシップ経験など、決して楽なことばかりではありませんでした。しかし、その一つひとつの経験が自分を大きく成長させてくれたと感じています。
また2年前のレポートには、「英国での経験を最大限に活かし、将来は現代の国際問題の解決に尽力したい」と記していました。当時はその思いこそ強く抱いていたものの、「どのような形で社会に貢献したいのか」という問いに対する答えはまだ見つかっていませんでしたが、この2年間を通して、私はその問いに対する自分なりの答えを見つけることができたと思っています。
そのきっかけとなったのが、A Levelで学んだ政治学と経済学でした。特に経済学を学ぶ中で、「理論を現実社会でどのように活かすことができるのか」という問いに強く惹かれるようになりました。
特に印象的だったのは、Economicsという言葉が、古代ギリシャ語の oikos(家・家庭)と nomos(管理・法)に由来するということです。経済学とは市場やお金だけを扱う学問ではなく、限られた資源をどのように配分し、人々の生活や社会全体の厚生を向上させるかを考える学問です。この考え方に触れ、経済学は人々の暮らしそのものに向き合う学問なのだと実感しました。
経済学を深く学んでいく中、EPQ(探究)では少子化政策をテーマに研究を行い、現金給付だけではなく、育児休業制度や保育サービスの充実など人々の行動そのものを支える政策が、長期的にはより大きな社会的利益につながる可能性があることを学びました。さらに行動経済学においては、「人は合理的に行動する」という従来の経済学の前提だけでは現実社会を十分に説明できないことを知りました。損失回避や認知バイアス、文化的背景、社会規範など、人々の意思決定には様々な要因が影響しています。そのため政策を設計する際には経済理論だけではなく、人間の行動そのものを理解することが不可欠であると感じるようになりました。
そしてIEAでの職業体験やBath Liberal Democratsでのインターンシップでは、政策は理論どおりに機能するとは限らず、常に意図しない影響を伴うことを学びました。戸別訪問では、一見豊かな地域にも見えにくい経済格差が存在することを知り、住民一人ひとりと対話を重ねる中で、人々の行動を変えるためには経済的なインセンティブだけでなく、心理や価値観への理解が欠かせないことを実感しました。こうした経験を通じて、理論と現実社会との距離を埋めることこそが政策設計の本質なのではないかと考えるようになり、経済学のこの分野に深く関心を持つようになりました。
上記で述べたこの2年間の経験を通して私は、経済理論が現実社会でどのように機能し、またどのような限界を持つのかをさらに深く探求したいと考えるようになりました。そこで大学では、経済理論と現実社会の関わりを多角的に学び、人々の行動や価値観を理解する視点を養いたいと考えています。これまでのボランティア活動や地域での実体験を通じて、社会の仕組みは数字や理論だけではなく、人々の思いやつながりによって支えられていることを実感しました。そうした2年間で培ったパブリックスクールでの経験を生かしながら、より良い社会のあり方を考え、学びを現実に生かせる力を身につけていきたいと思います。
Kingswoodでの生活は将来の進む道の基盤を築くだけでなく、学業以外でも多くの貴重な経験を積むことができました。Head of Schoolとして学校全体を代表する活動に取り組み、Ten Torsへの挑戦では、困難な状況でも仲間と支え合いながら最後まで諦めない姿勢を学びました。また、Social Justice Clubでは様々な社会課題について議論し、多様な価値観を尊重しながら対話することの大切さを実感しました。これらの経験を通じて、協働する力、粘り強さ、そして相手の立場を理解する共感力を身につけることができたと感じています。
イギリスで過ごした2年間は、学問的にも人間的にも、私を大きく成長させてくれたかけがえのない時間でした。2年前に掲げた「自分を磨く」という目標は、多くの挑戦や失敗、そして数え切れない出会いを通して、少しずつ実現することができたのではないかと思います。そして何より、この2年間で「経済学を学び、社会課題の解決に寄与したい」という関心を深めることができました。大学ではこの思いをさらに発展させ、理論と実践の両面から、社会の仕組みを学びたいと考えています。そして経済学を通じて、ビジネスや国際的な協働の場にも応用ができる視点を養い、真のグローバル人材として人々のより良い生活や持続可能な社会づくり、また世界の貧困問題の解決に貢献していきたいと思います。
このような貴重な学びと経験の機会を与えてくださったTazaki財団の皆様に、心より感謝申し上げます。英国での2年間を通して得た経験は私の将来の進路だけでなく、社会と向き合う姿勢そのものを形づくってくれました。そして、 Tazaki財団からいただいたご支援を自らの成長だけにとどめることなく、大学の学びを通じて社会に還元できるよう努めてまいります。