渡英まであと一週間を切り、Fettes Collegeから夏休み明けの予定が送られてきました。これまで
漠然としていた留学が、一気に現実味を帯びてきたように感じます。私は、小学校高学年から英
語塾で学び、将来は海外で学び成長する経験を積むことに漠然とした憧れを持っていましたが、
これまで海外で生活した経験はなく、昨年までは、まさか、こんなに早く、高校生で、そして5年間
も英国で学べる素晴らしい機会が訪れるとは夢にも思っていませんでした。私は、これまで、附属
の小学校から中学校、高校へと進学し、大きなチャレンジをすることには、どちらかと言うと臆病
だったように思います。私がこれまでで確実に一番大きな決断をすることができたのは、財団をは
じめとする様々な方々の手厚い支援があったからだと思います。そして、この留学プログラムへと
私を導いてくれたこれまでの多くの出会いと選択、そしてそれをサポートしてくださった方々に感
謝申し上げたいです。
振り返ると、私の英語や海外への興味は、NHK朝の連続テレビ小説「花子とアン」から始まった
ように感じます。「赤毛のアン」を翻訳した、村岡花子さんがモデルになったストーリーでした。当時
私はまだ8歳でしたが、農家に生まれた主人公が英語への情熱にかられ勉学に励み、翻訳家とし
て英文の奥に潜む背景にまで踏み込んで解釈していく姿勢、豊かな想像力に感銘を受けました。
そして、震災、戦争、息子の死と逆境を乗り越え、強く歩みつ続ける女性像にも強く惹かれました。
このドラマが放映されてからもう9年経ちますが、今でも「赤毛のアン」の表紙に書かれた村岡花子
という名前を目にすると心が弾み、勇気を与えられる気がします。英語を本格的に勉強し始めたの
はもう少し先のことでしたが、きっと彼女の存在があったから、気が遠くなってしまうような、文法演
習や単語学習に向き合うことができたのだと思います。違う時代に生きた彼女もまた、私をこの留
学へと導いてくれた気がします。
この留学プログラムに応募してから選考結果が発表されるまでの約3カ月は、私にとって様々な
意味で非常に貴重な期間でした。正直に申し上げると、当初は5年間留学に行くという決意が完
全に固まっている状態ではありませんでしたが、同じ目標を持った仲間たちとのBritish Councilで
の英語研修や面接を通じて、私の中で確かな覚悟が芽生えたと思います。ただ同時に、こんなに
素晴らしい機会を受ける資格が私にはあるのだろうかと思い悩むこともありました。流暢な英語を
話す仲間たちと比較して、自分の過去の選択や環境を悔やみ、ネガティブで無駄な時間を過ご
すこともありましたが、その過程を通じて自分の持っている強みやアイデンティティを再認識できた
と思います。これからも、さまざまな困難に向き合い、自分を見失ってしまうようなことがあったとし
ても、この期間で固めた自分の意志を信じて、自分の持っているカードで精一杯勝負していきた
いと思います。
「花子とアン」を見ていた当時の私は、附属小学校の2年生でしたので、日本での教育を受けて
社会人になる人生は、まっすぐな一本道のように目の前に伸びているように感じられました。しか
し、今は、海外での教育を受けるという未知の世界へ向かう曲がり角に立っているように感じます。
新しい世界に不安を感じることもありますが、その先にはきっと、この道を曲がらなければ出会うこ
とがなかっただろう素晴らしい仲間と成長があると確信しています。これまではまっすぐな道を歩
み続けられるよう努力を重ねてきました。その経験が与えてくれた安心と自信はきっと私の糧に
なっていると思います。これからは曲がり角を迎えた際に、たとえその先がどんなに険しそうに見え
ても、そして誰も選択しなかったような道が続いているとしても、敢然と曲がろうとする勇気と、その
先の新しい世界を受け入れる寛大な心を持ち、この5年間、そしてその先の人生をしっかりと歩み
続けたいと思います。
最終面接の際、田崎理事長に「30年後自分がどのような姿になっていると思うか」という質問をい
ただきました。30年後、17歳の私には想像もつかないような遠い未来に感じられます。しかし、47
歳になった時にも、今抱いている決意を忘れず、過去の自分の選択と経験、そして手元にある
カードに誇りを持って、社会に貢献できる人材になりたいと思います。