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Oさん(男生徒)都立桜修館中等教育学校出身

今回も前回のレポート同様に、自分の生活とその生活中に考えたことの二つに分けてレポートを書こうと思います。

①パブリックスクールでの生活
他のレポートで紹介されている通り、このタームは一年の中で最も短く、それでいて自分のやりたいことに専念できるタームだと感じました。スプリングタームは全部で10週間で、その間これといった大きなイベントもテストもありません。それ故に多くの人が自身の関心のあるアクティビティやスポーツに専念しているタームです。その間私はというと、可能な限りの時間を物理の勉強に費やし、きたる来年の受験に備えている次第です。自分がFettes にいてラッキーだったのは、自分よりも物理や数学に長けている人が周りにいることだと思います。他の2校の話を聞いていると、田崎生が優秀なこともあり、自分の専攻において学校の中で自分が一番であることが当たり前、ということが頻発しているように感じます。そんな中で自分と近い実力と目標を持つ友達と、自分が新しく勉強したことをシェアしたりわからない問題を一緒に考えたり、時には競い合ったりと、限られた環境でしか得られない幸せを享受することができています。勉強以外の面はというと、ようやく寮での生活がそれなりに居心地の良いものとなり、日常生活の中に何気ない幸せを見出すことができ始めている状況です。他に、前タームから始めたトランペットも、自分が練習するにつれて演奏できる曲が増えていき、上達することの楽しさを感じながら息抜きとして活用できています。 前タームのレポートで課題点としてあげた積極性ですが、少しずつですが改善しているように感じます。寮母さんの手伝いといったことから授業内での会話まで様々な面において少しずつですが、自分を出せているような気がしています。今後ともここは改善していきいと思います。

②考えたこと
前回はイギリスの個性教育というあまり目には見えない日本とイギリスの違いについて記述しましたが、今回は目にみえる教育の部分での違いについて考えたことを少しまとめていこうと思います。A levelと日本の高校の一般科との一番大きな違いはその「専門性」にあるというのはいうまでもありません。A level では多くの人が3.5科目(EPQ などを考慮すると)をとっていますが日本の共通テストでは多くの人が5教科7科目ほどのテストを受けることになります。ここで興味深いのは、内容の難易度は(少なくとも私の受けている科目は)さほど変わらないということです。したがって日本の大学受験期の受験生の知識量や問題に対する経験値はA level を受ける生徒のそれとは比べ物にならないくらい膨大なものだと思います。この日本のやり方の大きなメリットは視野を広めてくれることにあります。共通テストを受けるまでの過程で学んだ自分の専攻とは無関係な分野の考え方は、直接は利用できなくともどこかで役に立つということがあります。(「教養としての学び」と言われることもありますが、個人的には教養の範囲を大きく超えている気がします。)特に学際分野の発展が進む現代において、狭い範囲の知識を身につけるだけにとどまらず、少し広い分野に精通しておくというのは一つの武器になります。では、A level を選択することのメリットはどこにあるのか、というと自分の専門分野を自覚できるということにあると思います。大学で実際にその科目を専攻する前に、その科目が本当に自分の求めているものなのかを確かめることができます。つまり、A level はある種の橋渡しの役割を担っていると考えています。A levelの段階で自分のなんとなく興味のある分野を絞り、そこで科目を絞った大学での勉強に近い学びを経験することによって自分が大学で専攻する科目に自信を持つことができます。一見大した利点ではないように見えますが、ある科目を専攻する、というのがどういうことかわからずに科目を選択して大学を選ぶというのは商品の概要だけ聞いて高額の買い物をするようなもので実はかなり恐ろしいことだと考えています。もう一つA level をとることの大きなメリットは自由に勉強できる時間があるということです。先ほど述べた通り、A level は日本の大学入試の2次試験ほどレベルが高いわけではないので、(特に理系の人は)そこそこに勉強をしておけば十分に高得点を取れます。つまり、残った時間を自分の科目への理解に費やせるということです。(同時に、「橋渡しの期間」であることからA level の科目を変えることを容易にしている)自主性に委ねられたこのやり方は国の学生全体のレベルを上げる、ということには繋がりませんが、今後アカデミックな道に進もうと考えている学生たちのレベルの上限を引き上げる ことができます。ここにイギリスの大学のレベルの高さが起因するのだと今では考えています。
また、パブリックスクールと日本の学校の違いの一つとして、ホームルームの有無があります。ホームルームを持っている日本では学校内のほとんどの活動をクラスという集団の中で行うため、必然的にその集団が意識されその集団に貢献、寄与することが求められます。ここで求められられるのはクラスというまとまりそのものと生きるための心得であり、ホームルームの存在によって所属している集団との付き合い方を学ぶことができます。パブリックスクールではホームルームの置き代わりとして寮があります。寮のホームルームと異なる点は集団行動よりも集団生活が意識されるというところです。集団生活をしている際には、集団行動よりも構成員一人一人に対する想いが強くなります。一緒に生活をしているうちは、誰かと完全に関わりを断つということはほとんど不可能でしょう。さらに、ホームルームと異なり寮の仲間と同じ授業を受けるということは少ないです。したがって学問とは切り離された友達として付き合っていくことができるのも寮のまとまりとしての強固さを助長しています。この部分においても前段落のA level 同様、大学での生活への橋渡し、という役割が見えるように思います。イギリスの多くの大学生がその一年目を寮で過ごすことになります。そこでの生活はパブリックスクールのものと大きく異なりません。特にパブリックスクールの場合、同じ寮の仲間とかなりの長い期間を共にすることが多く、大学に入学する際の心理的なハードルというのはステイトスクールのそれよりもかなり大きいと考えられます。そのようなことも考慮し、大学へ入学する際の環境の変化を減らそうとする取り組みの一環であると考えています。
このような思慮の機会を提供してくださった田崎財団の皆様に感謝し、今回のレポートを終えたいと思います。