お知らせ

Kさん(男生徒)国立学芸大学附属高等学校出身

日本の夏特有の湿度と日照りに慣れてきたいま、暗く寒々としたエディンバラでのパブリックスクール生活が、だんだんと朧げな記憶の断片と化してきていることを実感する。もちろん、これから先の人生でたまに思い出すことになろう出来事は少なからずあったし、そもそも日本に帰ってきたのはたかだか二ヶ月ほど前の話なので、セピア色になるのはまだ早い。それでもイギリスで起こったさまざまなことがどこか遠く感じるのは、エディンバラにいた自分と、今日本にいる自分が別人だからだ。環境が変われば人間は変わる。別に無邪気な環境決定論を唱えているわけではなくて、単純に、食事も言語も周りの人間も変われば、それらを受け取る自分という主体も必然的に少しは変わるという当たり前の話だ。たぶん、あと少ししてロンドンに行ったらまた少しだけ違う自分になるだろう。できれば、実家ですることもなく筋肉も弛緩し切った自分は日本に捨て去っていきたい。

フライトの日が近づくごとに、大学での勉強が楽しみになってくる。ほぼ趣味のように読んだり書いたりしていた哲学というものが、これからの学生生活の中心になるだなんて、とても幸運だと思う。哲学をするということは、(陳腐な比喩だが)世界を見るための新しいメガネを獲得するということだ。自分が環境要因によって変化するとき、それは本質的に受動的であるが、勉強によるときは、能動的な変化・改革になる。哲学的概念を獲得していく過程で、新しいOSがインストールされるような生成変化が促されるのだ。つまり、新しい環境で新しい勉強をするというのは、二重の意味で自分が変わってしまうということである。肝要なのは、それをいかに素直に受け入れ、耐え抜くかだと思う。自分が与えられた機会を最大限生かせるように毎日精一杯過ごしていきたい。