虫の鳴き声が秋の訪れを知らせるとともに、受験準備に明け暮れる二度目の夏が終わろうとしている。8月10日にA-levelの結果を受け取り、正式にOxfordに再挑戦することを決めた。
今回のレポートではYear13の間に起きた出来事と、仮面浪人という決断をするに至った経緯を、大学受験に焦点を当てて報告したい。受験に関しては不確かなことも多く、長いレポートになってしまうが、後輩たちの参考例の一つとなれば嬉しく思う。
2020年10月、私はOxford大学のEconomics and Management(E&M)を第一希望とし、その他UCL, LSE, St Andrews, Warwickの経済学部に出願した。経済学部を志したのは気候変動への解決策を経済の視点から模索したいと思ったからだ。
11月。E&M受験のためのAdmissions Test (TSA)を受けた。Oxfordはこのテスト結果を足切りとして使うことが知られている。私のコースは出願者の21%のみがインタビューに呼ばれる。本番、緊張感に焦る気持ちがあったことはよく覚えている。
12月。Oxfordからの一通のメールがRejectionを伝えた。インタビュー準備を進め、教授たちと議論できるチャンスに期待を膨らませていた矢先だった。5年間の留学を通じた長期目標が「広い視野を持つこと」と「世界中にネットワークを広めること」だった。Oxfordに入学することはKWでの2年間を通じた中期目標として捉えていた。あまりにもあっけなく終わってしまった受験の現実を受け入れることは難しかった。諦めることはできなかった。
再チャレンジの決断を前に、不合格だった理由を可能な限り詳細に分析した。Oxfordがインタビューのshortlisting decisionを行う際にどの情報を重要視しているのかが公開されているので、その情報をもとに考察した。
・Predicted Grades
重要度:High
私はMaths, Further maths, Economics, Biology, Japanese を選択。A*A*A*A*A*というPredicted gradesをもらっていたため不合格の理由とは考えにくかった。
・Pre-interview admissions test
重要度:High
Section1の結果はOxfordによるBand 2(Probably shortlist)の高い方に位置していた。Band 1(Almost certainly shortlist)には及ばなかったが、いわゆるボーダーラインにいた。
・Reference
重要度:Medium
これは先生からの推薦書のようなものだ。テストやインタビューを行わないオックスブリッジ以外の大学(UCL, St Andrews, Warwick)のオファーは獲得したので、referenceに問題があったとは考え にくかった。
・Personal statement
重要度:Low
Referenceと同様である。
これらの情報からAdmissions testでボーダーラインに位置していながらリジェクトされた理由として以下の二点が考えられる。
①点数の公表がされていないSection 2 (essay)の内容
これについては、採点基準が明確でないためここでの言及は避ける。
②College選択
出願後、同じ高校から同じCollegeに出願すると不利になるという話を耳にした。実際、友人が他の生徒と同じCollegeに出願しようとしたところを、高校のHead of Sixth formの先生に止められていた。私の出願の際にそのような指摘はなかったが、一人同じCollegeに出願していたことが後からわかった。私も彼も、インタビューに呼ばれていない。Collegeをめぐる話は公式に発表されていない不確かな情報だが、不完全燃焼感が残った。
Rejectionの発表から数ヶ月は、煮え切らない思いから、浪人してオックスブリッジの倍率の低い学部を再受験する選択肢も検討した。違う学部の受験に役立ちそうな講演を聞いたり、関係する本を読む中で気づかされたのは、経済と経営を学びたいという強い思いだった。コロナの影響を受けた2020-2021年とは異なり、2021-2022年サイクルではdiffered entry(合格をもらっている大学の入学を一年延期すること)して他の大学を受験することは不可能となっていた。残された選択肢は3つだった。
①UCLのEconomicsに進学
②仮面浪人をしてUCL在籍中にOxford E&Mを再受験
③浪人してgap year中にOxfordを再受験
UCLは生徒の満足度も高く経済学部も質が高いと有名だったため、オファーをもらった際はとても嬉しく、進学の道も考えた。大切なのは3年間のうちに何をするかだ。「諦めなければ、努力すれば、必ず夢は叶う」とは断定できない。
やれることは全てやったと感じた中での不合格通知だったため、同じ思いをしたくない、と足がすくんだ。再受験であっても世界一の難関にチャレンジすることに変わりはなく、門戸は出願者のうち6%にしか開かれていない。また不合格になる可能性の方が高い。失敗は怖い。しかし、熟考の末に再チャレンジを決めたのは、自分で結果に納得したかったからだ。経済だけでなくマネジメントも学びたいという想いが強かったからだ。
Gap yearを取って浪人するのではなく仮面浪人という選択をした理由は以下の二点だ。
・浪人のリスク
私は出願した5大学のうち、UCL, St Andrews, Warwickからオファーをもらい、Oxford とLSEからリジェクトされた。
LSEに不合格だった理由はパーソナルステイトメントだった。UCLや他大学からは評価された内容だったため、この通知にはショックを受けた。
パーソナルステイトメントは、読むadmission tutorによって評価の仕方が異なる。私の書いた内容がトラディショナルな経済学を教えるLSEに合わなかったのではないか、というのが経済の先生とともに出した考察だ。
また、私と同じpredicted gradesでUCLとLSE両大学を受験した友人は、私と逆の結果だった。良い成績を取っていても必ずしも全ての大学から同じ評価を得られるとは限らない、という現実が浮き彫りになった。浪人した際、再度同じ大学からオファーをもらえる保証はどこにもない。そのことは大学に問い合わせた際の返信からもうかがえた。最悪のシナリオを回避するため、浪人することはリスクが高いと考えるようになった。
・仮面浪人のメリット
日本とは大学入試のシステムが異なるため、仮面浪人(大学に通いながら別の大学に出願すること)は通常の場合、できないことになっている。実際、Cambridge大学は仮面浪人を認めていない他、Oxfordも仮面浪人をする際はその理由を示すことを出願の条件としている。(なお、この情報は2021年8月現在での大学側の対応なので、変化する可能性もある。)
大学と受験の両立に際して、不安材料は多々ある。しかし、大学での講義はインタビューへの準備につながり、Gap year中に学業を続けられるというメリットがある。また、Oxfordに合格できれば、二つの大学に在籍した経験からさらに多くの人と知り合い、刺激を受けることができる。不確かなことも多いが、得られるものも多いという結論に至った。
7月。A-levelの試験勉強に勤しむ怒涛の数ヶ月が過ぎ去り、2年間のKW生活が幕を閉じた。卒業式では、教科の成績優秀者がattainmentとeffortの2項目から1人ずつ表彰される。私は全教科でこのPrizeをとることができ、2年間の努力が実を結んだように思えた。最後の数週間は試験に追われることもなく、街に出かけたり遠足に行ったりと、友人たちとかけがえのない思い出を作ることができた。
8月。results dayでは目標としていた5A*sをとることが出来た。これは再受験のスタートラインだ。
9月からはUCLに在籍しながら再び受験準備を進める。この選択が正しいものか否か、今はまだわからない。我ながら諦めが悪いとも思う。だが、最後の悪あがきをしてみたいと思った。選択が正しかったかどうかを決めるのは自分自身だ。未来の自分が今日の選択を後悔しないよう、真剣に、一歩一歩、今ある課題に全力で取り組んでいきたい。その過程で得るものは大きいと信じている。
KWでの2年間は、今までで最もチャレンジングで、自分自身の弱さや脆さを目の当たりにさせられる時間だった。だが、この世に乗り越えられない試練はない。初めて経験した困難は、しかし、私にそれを乗り越える強さと、勇気と、諦めない粘り強さを同時に与えてくれた。自分本位ではなく周りを信じて助け合うことの大切さを教えてくれた。
こみ上げてくるのは感謝の気持ちばかりだ。落ち込んでいたときに外へ連れ出してくれたホストファミリーとKWの友人たち、ずっと支えてくれた家族、悩んでいた時期に相談に乗ってくれた1期、2期生の先輩方、ライバルとして、親友として常に刺激を与えてくれたKW3期生の二人、彼らがいなければ今の私はいない。汗と、涙と、笑顔の詰まった濃い時間を共に作り上げた皆に心から感謝したい。
大学が始まり、新たな生活となるが、これからも日々の感謝を大切に過ごしたい。そして最後になったが、このような素晴らしい学びの機会を与えてくださったTazaki財団の皆様、本当にありがとうございました。