お知らせ

都立日比谷高等学校 Iさん(女生徒)

あっという間だった秋のタームを無事終え、早くもクリスマスを迎えました。今学期は出願やインタビューなどで目まぐるしかったですが、ここでは敢えて音楽のシーンを切り取ろうと思います。一つはイギリスの音楽の検定試験、もう一つはイギリスのクリスマスキャロルからです。

イギリスでは、楽器や声楽の検定試験が盛んです。私はAレベルで音楽を選択していませんが、学校内で課外の声楽レッスンを受講し、そこで検定に向けて主に実技の指導も受けることができました。Kingswoodで奨められた音楽検定試験ABRSMにはグレード1から8まであります。私は今年の秋に声楽のグレード8の試験を受けました。去年イギリスに来てから声楽を始めた私にとって、他のことでも一番忙しい時期に試験を受けるのは、少し(どころではないほどに)大変でしたが、声楽の先生の熱心な指導もあり合格できました。

試験は歌唱実技に加え、初見歌唱やAural testsで知識を問う問題があります。フレーズを聞いて答える問題もあり、知識の補強が不足していた私には少々大変でした。実技の試験では、Sacred、Art song、Musical theatreなどのジャンルの歌を歌いました。Unaccompanied traditional songもあり、これは民謡をアカペラで歌う声楽では必須の項目です。歌の情景や物語を伝えやすいと思い、私は日本の曲を選びました。久しぶりに日本の民謡を改めて歌うことで、英語の曲との音楽の創り方の違いを感じました。

次に、クリスマスキャロルについてですが、今年のクリスマスは、学校のchoirとは別にBath Bach Choir(以下、BBC)という地域の聖歌隊にも参加したので、合計で30曲以上のクリスマスの歌を歌いました。こんなにもクリスマスの曲があるのかと単純に驚くとともに、音楽が人々の心に長い時間をかけて形成するものついて潜考させられもしました。
イギリスおいてクリスマスは日本でいうお正月のようなものです。家族皆で集まり、七面鳥やブラッセル・スプラウツ(芽キャベツ)などの伝統的なクリスマス料理を食べます。ホストファミリーの家で25日のクリスマスに向けて、いそいそと家の中や料理を準備している様子を見ていると、日本の年末年始の雰囲気にとても似ていると肌で感じます。筝と尺八が奏でる「春の海」がテレビなどから流れるのを聞いて日本人が正月だなあと思うように、イギリスではクリスマスが近づくと、至る所から聖歌隊の歌うクリスマスソングが聞こえてきて、クリスマスの空気に人々を引き込みます。

私が今年歌った30曲の半分近くは人々に馴染みがあり、団員にも知っている前提で選曲されていたようです。私も、ジングル・ベルなどはさすがに知っていましたが、古い曲だと全く知らないものばかりでした。聖歌隊で楽譜ではなく指揮者を見ることに苦戦していた私に、ある人はこう声をかけてきました。
「知らない曲を一度に沢山やるのって大変だよね。私達はこういうクリスマスの曲を小さい頃からずっと聞いているから自然と歌詞も覚えられたものだよ。」
何気ないこの言葉が私をはっとさせました。その国や地域の文化が私達の中にもたらす影響が多大である事に改めて気づきました。小さい頃から無意識化で築かれた文化の基盤というのは、その後における、季節ごとに「当たり前」にすることを疑いもなく「当たり前」のものとして形成するのだと思いました。

Bath Bach Choirで行ったコンサート当日にも、日本にはあまりない「当たり前」がありました。こちらでのコンサートでは、演奏終了後に出口でチャリティーの募金活動が盛んに行われます。これは学校でのクリスマスコンサートでも行われ、演奏を聴いて音楽を享受した分、他の人にも分け与えようということから興ったことなのかなと私なりに捉えていました。BBCでの演奏ではさらにチャリティー団体の名義のもとに作られた曲を、その趣旨の説明を伴って、演奏しました。コンサートの華やかな雰囲気だけを楽しみ、お金をただ募金箱に入れるだけでは、寄付の作業化が否めません。クリスマスという人々にとって誰かに何かを分け与える事を意識する季節に、こうして楽曲の造られた趣旨を演奏者とお客さんが共有し、音楽そのものの喜びを共に享受することができること、そしてその音楽を通して寄付の意義を再確認することができたと思います。

イギリスでの高校生活もあと約半年、学校でも聖歌隊でも多くの人に助けられ学びながら、体調を万全にベストを尽くしていきたいと思います。