お知らせ

Sさん(Queen Mary University London , Medicine / Kingswood school 出身)

5月末に学年末試験があり、とても充実していた医学部での最初の1年間が終わりました。その1ヶ月後には試験結果が全て出揃い、無事2学年に進学できることになりました。今回は、医学部での試験内容や成績について書きたいと思います。

まず、成績の評価基準は、大きく分けてPart A~Eの5つから成ります。そのうちのAとEは、一年を通して出される課題などをもとに成績がつきます。Part Aは、PBL(Problem Based Learning)のグループごとに与えられたテーマについてポスタープレゼンとエッセーからなり、エッセーは、Metablism (代謝機能学)から「食べ物の消化や吸収とセリアック病について」、Brain and Behaviour(脳科学)から「ストレスが脳に及ぼす影響について」を書きました。2つとも内容をリサーチしている段階から新しい発見がたくさんあり、とても興味深いテーマでした。形式に沿って、しっかりとしたアカデミックエッセーを書くことはほぼ初めてだったので、文献の書き方や学術論文を批判的に評価することに苦戦しました。より正確でわかりやすいエッセーを書くために練習を重ねたいと思います。

PBLのグループでのポスタープレゼンを含め計4回ほどプレゼンする気概がありました。各個人でやるものから、12人の大グループで行うものまで様々ありましたが、Bartsの大きな特徴のようです。さらにいうと、毎週PBLの際に自分の調べたことを他のグループメンバーに伝えることは、プレゼンに近いです。医者として、病気や治療法を患者さんに分かりやすく説明する上でも重要なスキルを習得するために、早い段階から練習する機会がたくさん与えられているのだと思います。

Part Eは、SSCs(Student Selected Components)の成績からなります。SSCsとは、自分の興味がある分野について選び、必修内容以上の学習をします。一つの分野をより深く理解することができ、将来自分の進む診療科を選択する上でも役立ちます。1年間に2週間SSCsのみに集中する機会が2回あり、大学が用意したストレスマネージメント、 催眠療法や、医学の 歴史など20種類ほどのコースの中から選ぶか、学びたい科の先生に直接連絡を取り、準備をすることもできます。私は、『ソーシャルメディアと医療の未来』と『上半身の解剖』というコースを選びました。『ソーシャルメディアと医療の未来』では、SNSがどれほど私たちの食生活に影響を及ぼしているかについてのエッセーを書きました。ここでもまた、自分が調べたことをまとめて発表する機会が設けられていました。『上半身の解剖』では、この1年間の中で1番充実していた2週間といっても過言ではないくらい貴重な経験ができました。解体されている体のパーツを見て学ぶ普段の解剖学の授業と違い、自分たちで筋肉や神経、骨などを特定していく作業は、どの神経を損傷したらそれが支配する筋肉に影響を及ぼし、運動機能が失われるかなど、上半身の人体の構造についてより理解を深めることができました。また、同時に、医学部生の学習のために自らの体を提供することに賛同してくれた方々に感謝の気持ちで一杯でした。

そして、残るPart B、C、Dは学年末にある試験を指します。まず、Part Bは1年間学んだこと全ての知識と応用を問うもので、5択の選択肢問題と短い記述式の問題で構成されていました。とても細かい点まで出題されると聞いていたので対策はしていましたが、1年で学んだ膨大な量の知識を問われたので、やはり難しかったです。一方、Part Cはデータの分析や画像の識別で、解剖学や組織学からの出題が多くされます。与えられた写真から体の部位の名前や、体のどこを移した顕微鏡下の画像なのかなどを中心に質問だれます。あらゆる角度から撮られた写真を見て判断するので、どの部位を見ているのか分かりづらかったり、染色されている組織の画像は全て同じものを見ている感覚に陥ったりしました。

最後にPart DはOSCEs (Objective Structured Clinical Examinations)です。これは、客観的臨床能力試験と訳され、1970年台にイギリスで開発されて以来、医療面接・身体審査などの基本的臨床能力を評価する画期的方法として世界的に用いられるようになったそうです。Clinical Skillの授業が1年で8回ほどあり、その中で心臓の音を聴診器で聞いたり血圧を手動で測ったりする心臓検査のやり方や、肘や膝の動きを確認、神経の損傷がないかを検査する方法などを学びました。
しかし、Part DのOSCEsのテストでは、これらの臨床検査だけではなく、解剖学や生理学からも出題され範囲が広いことに加え、その場で試験官に質問される口頭試問の形式なので、対策もとても大変でした。ブース毎にシチュエーションの書かれたシナリオを1分で読み、その状況を捉えてどう対処するのかを考えて、実際に模擬患者に6分程度接します。2日間に渡り、3つずつ計6ブースを回ります。
私が最も難しかったと感じたのはコミュニケーション力を試すブースで、シナリオには「あなたは医学部生としてGP(日本でいうかかりつけ医)の見学に来ている。学びを深めるために、待合室にいる患者さんに話しかけ、患者さんの病気について尋ねよ。」とありました。1分間の準備の段階で、私は、患者さんと話す際に参考にすると良いとされる『ICE』というフレームワークを頭の中で浮かべていました。『ICE』は、Ideas、Concerns、Expectationsからなり、これらを全て網羅すれば、患者さんがなぜ病院を訪ねてきたか、何を求めているか、どういったことで困っているかなど、必要な情報を全て聞き出すことができるというものです。しかし、模擬患者と話し始めると、このフレームワークに従うこと以前に、病状を話すことすら拒み、何も話そうとしてくれなかったのです。というのも、待合室には他の人がたくさんいて、プライバシーがなかったからです。とても焦りましたが、後に、こういった状況では患者の事情やプライバシーを尊重し、それ以上質問を続ける必要はないことを知りました。試験の間ははなすことに同意が得られず、最終的には諦め感謝の気持ちを伝え終了しましたが、患者さんの気持ちを考え、もう少し早い段階でやめておいた方が良かったと思いました。このように、どういったシチュエーションにも臨機応変に対応できる力が医者として求められていると強く感じました。

これらの試験があと4回はあると思うと気が遠くなりますが、ハードルをひとつずつ乗り越えて一歩ずつ夢に向けて進んでいきたいです。目の前にあることに集中しつつ、同時に広い視野を持ち続け、将来を見据えた行動をしたいと思います。