お知らせ

Sさん(Queen Mary University London , Medicine / Kingswood school 出身)

2020年の3月に新型コロナウイルスの影響で帰国してから18ヶ月後、一年のギャップイヤーを経て、9月にようやく再び渡英しました。今回は、Queen Mary University London (Barts and the London)の医学部での3ヶ月間について、学問や生活に焦点を当てて書きたいと思います。

VISAの発行が思いがけず遅くなってしまった影響で、1年生向けにたくさんイベントが企画されているFresher’s weekに間に合わずの渡航となってしまいました。結局、着いた翌日から授業が始まり、1年以上ぶりの学校生活で体が慣れていないことに加え、医学部のレクチャーやグループワークなどの授業量に圧倒されてしまいました。

私の大学のカリキュラムは、intercalationという1年間医学の勉強とは少し違うものを勉強する期間を除いては、基本的に5年です。その5年間のスタートは、FunMed(Fundamental Medicineの略)と呼ばれる、9週間の医学のお試し講座のようなモジュールでした。1週間ごとにトピックが変わり、GeneticsやPharmacology、Immunologyなど基礎中の基礎を勉強し、それぞれの生徒の理解度を揃えるという目的のものでした。というのも、A-levelを終えてそのまま医学部に入った人もいれば、私の様に1年間ギャップイヤーを取った人、他の学位を取ってからgraduateとして入った人や、オペラ歌手として活躍した後に入った人、2人の子供を育てながら勉強する人など、様々な年齢やバックグラウンドを持つ人がいます。それに加え、私は英国でA-levelをやりましたが、他の留学生は異なる教育を受けているため、皆が同じスタート地点に立てる様にしているのだと思います。

基礎の勉強といっても、決して簡単なものではありませんでした。基本的には、レクチャーは録画されているものを見ますが、解剖学や生理学の実習はあり、また、臨床技能の練習の講義やグループワークは対面で行われるため、毎日がとても忙しかったです。解剖学は、prosectionという、もともと解剖されている体の一部が各テーブルに置いてあり、それを観察しながら回るという授業内容です。実際に心臓や足の骨など、ゴム手袋をつけて様々なパーツを触ることができるので、匂いは少しきついですが、より立体的なイメージがしやすく、私が好きな授業のひとつです。それと同時に、このような貴重な経験ができるのは、医学部生の教育のためにと、献体をしてくださった方がいるからであり、感謝の気持ちを持って取り組みたいと改めて感じました。

医学部を選ぶ上で重要となる要素1つと言われているのは、教え方、授業のスタイルです。主にレクチャーのみからなるtraditionalのところもあれば、Enquiry-basedやcase-basedというところもあります。私のいるBartsは、PBL (Problem-Based Learning)というものがあります。毎週新たなシナリオが渡され、グループで問題点などをブレインストームし、自分たちでLearning objectives (勉強の課題)を見出します。それを元に各自情報を集め、次のPBLセッションでグループメンバーと意見を交わし、理解を深めるというものです。各々が違った視点で調べてきた情報を持ち寄るので、新たな気づきや発見があり面白いです。
また、ファシリテーターと呼ばれる先生が各グループにつきますが、生徒がチェア(ディスカッションを進める役割)とスクライブ(ノートを取る役割)を務め、基本的に生徒主体となって行われるので、積極性を早いうちからつけられます。

もう1つのBartsの特徴的なことは、1年生のうちからClinical placement (臨床実習)があることです。2週間に1回実際に診療所に行ってGP (General Practice)を見学する機会があります。しかし、新型コロナウイルスの影響で今のところ全てオンラインになっています。朝9:30から夕方の4:00まで、パソコンの前に座っての研修は少し辛いですが、実際に患者さんとお話をする機会があり、薬がすぐに手に入らないことや、望む治療を受けるまでに時間がかかるといったことを聞き、医療従事者とは異なる視点から医療を見つめ直すきっかけになりました。

この3ヶ月間では、勉強以外にも大学内外で様々なことに挑戦しました。医学部生は、全学部の学生が入ることができるSocietyと主に医学部の学生からなるSociety の両方に入ることができ、幅広い選択肢があります。私が入った、Cardiology Society(心臓学)、Surgical Society(外科)、Friends of MSF(国境なき医師団)ではその分野に詳しい医者などの演説者を招き開催されます。毎回刺激を受け、自分が将来進みたい道を考える上で役に立っています。上の学年が試験前には難しい箇所の説明や、頻出箇所の要点のまとめ勉強を教えてくれるSocietyもあります。
また、Teddy Bear Hospitalというボランティア団体の活動にも参加しました。これは、小学校低学年に健康でいることの大切さを教え、医者や歯医者への恐怖をなくすことを目的としたもので、医学部と歯学部生がおもちゃなどを使い、6歳ぐらいの子供にもわかるように説明します。最初は普段習う難しい医学用語を避けて説明するのに手こずりましたが、これは子供たちだけではなく、大人の患者さんに対しても使えるスキルだと思いました。それ以外にも、運動系ではバドミントン、他にはクラフトSocietyやJapan Societyなどにも参加しています。新しい人にたくさん出会い、友達の輪を広げることができました。A-levelのころのボーディングスクールの小さなコミュニティと比べ、大学は想像より広く、多様な人々がたくさんいて楽しいです。

しかし、このタームのハイライトはやはり、オペ室に入り、心臓の手術の見学ができたことです。これは、Cardiology Societyのmentorship schemeというもので、1年間メンターのもとで心臓血管外科について学べるという機会を得ることができました。Mentorship schemeは、基本的に自分で学びたいことをメンターと話し合い、主体的に学ぶ場を作ることで成り立ちます。最初のミーティングで会ってすぐに、手術が始まるからスクラブに着替えてくるように言われました。思いがけない展開に一瞬混乱しましたが、初めてのオペ見学に興奮しました。
オペ室に入ると、患者さんはすでに麻酔をかけられていて、胸骨が開けられ、心臓が動いているのが見えました。一度心臓を止めて手術をしていましたが、また再び動いた心臓を見た時には感動しました。手術中には、メンターの外科医が、まだ勉強をしていない範囲の質問を次々してきて大変ですが、ケースバイケースの対応を学ぶことができます。
また、短い時間で患者さんの人生を変える可能性のある手さばきに圧倒されました。これから1年間、週2回のオペと回診を見学できるので、自分のこれからのキャリアに繋げられたら良いと思います。

大学外ではUCLの医学部5年生の日本人が立ち上げた、グローバルヘルスについてのプロジェクトに参加しました。様々な国の若手ヘルスケア人材が、国際保健課題をより身近に感じ、リーダーシップを伸ばすというものです。グループでケニアのマラリアについてのケーススタディーに取り組み、自分たちで課題を見出して解決策を考えていくという構成は、先ほど話したPBLにも少し似ていました。グループメンバーには、ケニアの学生もいて、現地でのマラリアの状況を直に聞くことができ、メディアが捉えていることとの違いにも驚きました。日本や英国、ケニア、キプロスの年上の医学部生と交流することができ、とても刺激的な場でした。国際保健や公衆衛生は、個人的に興味がある分野ですが、大学のカリキュラムとして学ぶ機会が少ないので、積極的に外部のプログラムなどに参加して知識をつけたいと思います。

もちろん海外での生活は大変ですが、大学での新たなスタートを切ってからのこの3ヶ月間は、様々なことに挑戦することができとても充実していました。このような環境で学べることに感謝し、今後も精一杯勉学に励みたいと思います。