お知らせ

Sさん(女生徒)都立日比谷高等学校出身

2週間の隔離を終え9月に始まった学校生活は、昨年度とは全く異なるものとなってしまいましたが、また先生や友達に実際に囲まれて勉強できることの楽しさを実感する毎日でした。一方、制服なしマーチングなしのChrist’s Hospitalが普通に思えてしまったり、映画を見ていてマスクをしていない人々が街中で喋っていることに違和感を覚えたり、日常や価値観がこんなにも簡単に変わってしまったことに驚いています。

この学期のハイライトはやはり本格的に始まった大学受験でした。私は音楽学を専攻することに決めましたが、それについて少しお話ししたいと思います。

日本には演奏をメインで学ぶための音楽大学が多くありますが、一般大学で音楽を学ぶということはあまり聞かれません。実際イギリスに来る前、私にとって音楽は無くてはならない生活の一部でしたが、あくまで趣味であり、勉学とは完全に切り離して考えていました。
しかしA-levelでMusicを取り始め、楽器を弾くだけでなく、学問的に音楽にアプローチすることが私にとってどんなに興味深いことかを知りました。日本での演奏経験を通して得た知識を材料に、先生と討論したりエッセイを書いたりするというプロセスは、点を繋いで線にしていくような感覚でした。

大学で音楽を学ぶという決断に関して、音楽家にならない限り仕事には生かせないし、音楽家として生計を立てるのはとても厳しいという意見もあるかもしれません。私自身にもその不安はありました。しかし、日本で一生懸命努力してきたことや自分という個性を一番に生かせるのがこの道なのではないかという結論に至りました。
大学は、就職のためのツールである以前に、社会に出て働く前に自分の知的好奇心を満たせる最後の場であり、そこで自分の本当に興味のあることを思う存分学ぶことができるのは、とても素晴らしく贅沢なことだと思います。また、将来の職業が音楽に関わらないものであったとしても、研究を通して見聞を広げ、それを材料に考えるというスキルや、毎日自己管理して楽器の練習をすることから得られる努力を継続する力は、どの分野にも精通するのではないでしょうか。
イギリスでは芸術も大切な学問の一部として考えられているため、OxbridgeやDurhamをはじめ多くの大学で音楽学を専攻することができます。2年前の自分だったら考えもしなかったような可能性に出会えたこと、自分を見つめ直す時間が持てたこと、そして何よりもそれをサポートしていただける恵まれた環境にあること、本当に感謝しています。

5大学に加えて、選択肢を広げるためにRoyal Academy of Musicをはじめとする4つのconservatoire(音楽院)にも出願しました。本来は対面でオーディションがあるのですが、今年はビデオ審査、オンラインの試験そして面接と異なった形式で実施されました。その他に、CambridgeとManchesterのための面接もあったため忙しい12月でしたが、結果を待っている1校以外の8校からオファーをいただくことができ、今は少しほっとしています。

Cambridgeの面接は、音楽学科ならではの面白い経験でした。面接当日に予定されていたテストは、課題が送られその日の決められた時間までに終わらせ送り返すという形で代替されました。面接では、音楽史や与えられた楽譜についての分析や討論だけでなく、旋律を初見でピアノ伴奏付けしたり、歌ったり、頭フル回転の充実した1時間でした。
面接官とのやり取りを通して、自分の持っている知識を結びつけて答えを導き出す過程が見られます。例えば、質問に答える中で行き詰まった時には、ここに注目してみたらどうと新たな視点を提示してもらったことで、答えに近づくことが出来ました。このように、常にものの様々な見方を模索する姿勢を大切にしていきたいです。オンラインではありましたがやはり緊張して、音楽史関連の質問にはかなり答えるのにつまずき、くだらない間違いをすることもありました。まだ結果はわかりませんが、面接を受けることが出来ただけでもとても刺激的な経験になったと思います。

昨夜、3度目のロックダウンと共に、最短でも2月のハーフタームまでオンライン授業を行うこと、また夏のA levelの試験は通常通りに行われないことが発表になりました。イギリスに残っている海外生徒は学校に戻ることができますが、A levelの成績はどう出すのか、学校でのmock試験はどのように行われるのか、いつになったらIELTSが受けられるのか、先は見えません。私は前回の報告書の最後でも「先が見えない」と言っていた気がします。そうです、刻々と状況が変化する中で、明確に先が見えるはずはありません。それでも進路実現に向けて着々と進むことができたこと、そしてこの忘れられない2020年を皆で乗り越えられたことを自信に、人間としてより強くなるため神様に与えてもらったこの機会に感謝して、最後まで踏ん張ります。