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Sさん(女生徒)都立日比谷高等学校出身

気づいたら8月も中頃、渡英が近づいてきました。イギリス国内でも新型コロナウイルスが広まり始めた3月から今まで、おそらく私の人生の中で最も奇妙な、そしてある意味とても貴重な経験ができた期間だと思います。

さてその話に移る前に、もはや遠い昔のように感じますが順調に進んでいたLent term (Winter term) の前半について書きます。

CHでの学校生活にもすっかり慣れ充実してきた一方、やはり私にとってのハイライトは、Guildhall School of Music & Dramaでの土曜日が始まったことでした。学校から受け取った朝食を手に、毎週朝早くロンドン行きの電車に乗る私の胸には、少しの緊張、時間通りに動かないイギリスの電車に対する不満、そして大きな期待が入り混じっていました。Guildhallの建物に着くと、個人レッスン、オーケストラやアンサンブル、音楽史や分析の授業とあっという間に一日が過ぎていきます。
中でも、Junior Guildhall String Ensemble というグループに選抜されたことは、大きなモチベーションとなりました。新参者にも関わらずleader(コンサートミストレス)を務めることになり、周りに受け入れてもらえるかという不安を抱えていた中、お互いを称え、刺激し合いながら活動するという雰囲気が私の大きな支えになりました。これはイギリスで普段から感じていたことですが、先生はもちろん生徒も、周りを褒め、また周りに褒められることがとても上手です。日本の謙遜文化の中で生きてきた私にとって、相手の言葉を謙遜という名目で否定する態度は必要とされておらず、それ以上に称えてくれたことを感謝し、逆に今度は相手の優れた点を探すというプラスのサイクルの重要さを見出すきっかけとなりました。
それ以外にも、ロシア出身フィンランド国籍の先生との出会いやロンドンの歴史ある教会でのバロックコンサート等、文化面でもヨーロッパであるからこその経験を重ねる機会に恵まれました。

時は進み、日本では新型コロナに対する危機感が募る一方イギリスでは普段通りの日常生活が続いていた3月3日、私はイギリスで周りよりも一足先にこのウイルス関係で影響を受けることになります。

GuildhallのSenior部門(大学)で教鞭を執る一人の先生の新型コロナウイルス感染が確認されたのです。その先生はJuniorとは一切関わりがないのですが、まだイギリス全土で数十件しか陽性が出ていなかったこともあり、朝早くからCHの行動は迅速でした。結局私はMedical Centreの隔離部屋で一日を過ごすことになり、なんだか感染したような気分でした。その後、その先生との直接のコンタクトが無かったことや私は健康であることが確認され、解放されました。一日限りの隔離生活とはいえ、外に出た時の空気の美味しさは忘れられません(笑)。

その安堵も束の間、3月12日にCHはYear 11, 13を残して急遽休校することになります。Internationalの生徒は滞在先が見つかるまで学校に居ることができ、この時点では来月には学校は予定通り始まるだろうと事態を楽観視していました。ところが、数日後イギリス国内状況の悪化に伴い、学校側は全てのInternationalの生徒に自国へ帰るよう言い、ようやくこれから起こり得ることが見えてきました。一時帰国で生じる様々な問題(英語力の低下、学習資料の不足、時差)への不安や、学校とguardian側の温度差もありましたが、CH三期生でも話し合い、様々な方のお力添えで帰国の便が決まりました。
一部休校から帰国までの10日間、私の寮には約10人が残っており、一人ずつ減っていきました。生徒数が激減し外とのやり取りを最小限にカットした学校で、どこかサバイバル生活をしているようで不思議と寮の中での一体感が高まっていったのを覚えています。
政府が夏にGCSEやA-level testを実施しないことを発表したことを受け、学校は残っている学年に対しても休校をすることを決めました。その日、CH名物の行進もYear 13の人たちやYear 11で学校を変える人にとっては最後となるため、いつもとは少し異なる特別な形で行われました。今までのCHでの思い出を胸に歩く寮の下級生、そして先輩方の笑顔は何よりも輝いて見え、私も来年笑ってCHを去ることができるよう、何事にも一生懸命取り組もうと決意を新たにしました。
帰国前日の夜、とうとう寮で一人になった私を最後まで温かく見守って下さったHouse Parentには本当に感謝しています。

4月に始まったSummer termはパソコンと向き合う日々でした。学校の授業は全てMicrosoft Teamsを通して行われ、それに加えて課題提出で補うという形式でした。化学の実験や音楽の作曲は実施オンラインでは実施できず、その分の時間は復習等に充てました。特に音楽ではこのエキストラな時間がとても役に立ちました。Michaelmas termに引き続き一対一で授業を行っていたため、大学での学びにつながるであろう幅広い音楽史や形式について教えていただきました。私は幼い頃からクラシック音楽に親しんできたこともあり、自分が好きな分野についての知識はある一方、そうではない分野(例えば教会音楽やポピュラー音楽)には自信がなく、そこを重点的に取り上げました。このように、私に本当に必要なものを必要なだけ学ぶことができるのは、一対一ならではですし、改めて恵まれている事を実感します。
それに加え、GuildhallやIELTSのオンラインレッスン、大学のVirtual Open dayにも参加し、意外と忙しく充実した毎日でした。
時には通信面で問題が起きたり、周りの子の様子がわかりづらかったり、そのような環境の中で勉強するということに難しさを感じたこともありましたが、なんとか乗り切ったSummer termでした。9000キロ以上離れた日本からもこのように教育が受けられたのは本当に素晴らしいことだと思いますし、この事態が技術の未発達な数十年前に起こっていたらと想像すると少し恐ろしいです。

夏休みに参加を予定していたSummer SchoolやWork experienceはキャンセルとなってしまい、教科の特性上オンラインでもなかなか興味のあるコースを見つけることは出来ませんでした。今は、スクリーンを眺め過ぎて疲れた目を休ませるとともに、読書や大学に出すためのエッセイの執筆に励んでいます。これはテーマも音楽関係であれば自由、字数も指定なしで、学校に定期的に課題として提出するような短いエッセイを出す人も多いそうなのですが、私は分析してみたい協奏曲があったのでそれについて調べてみることにしました。学校に帰ったら先生からもアドバイスを頂き、納得いくものも仕上げたいです。

Year 12の終わりは思っていたようなものとは全く違う形となりました。大事な留学一年目にこの世界的危機が起こってしまったのは、アンラッキーなようで又と無い貴重な経験です。そして忘れてはいけないのが、世界にいる誰もがこの問題により大小何かしらの不利益を被っているということです。私たちだけでは無い。逆に本来不利だと思われる状況こそ最大限の実力を発揮するチャンスなのでしょう。

凄まじい半年を乗り越えることができたのも、先生や財団の方々をはじめ多く支えがあってこそのことです。本当に感謝しています。イギリスに戻りどのような生活になるのか、大学のinterviewやtestはどのように行われるのか、先の見えない中ではありますが、一歩一歩前に進んでいこうと思います。