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Kさん(女生徒)国立東京学芸大学附属高等学校出身

吐き出した白い息が澄んだ空気に溶けていく。人気のない学校を歩くと自分がこの世界に一人だけのような気がしてくる。再渡英から100日以上が過ぎた今、寮の中でオンライン授業を受けるという奇妙な状況が日常になりつつある。9月から12月までのAutumn termは学校内でのテスト、大学進学への準備、インタビューへの準備と怒涛の日々だった。
今回のレポートでは、そんな中で学んだ「生活を楽しみ丁寧に生きる文化」の大切さ、コロナ禍での学校生活、そしてeconomics societyで行ったプレゼンテーションについて報告したい。

昨年A-level試験が中止となったことを受け、今年はevidenceを集めるために例年より多く、毎週1から5つのテストが行われ、一つ一つのテストで良い成績をとることが大切だった。毎週のテストと大学受験への準備が同時期に重なっていたため、これまでになく忙しいタームとなった。
そんな中、自分でも気づかない間に心に余裕がなくなり、糸が切れたかのように何をするにも力が入らない、集中できなくなっている自分があった。日々の生活に忙殺され、いっぱいいっぱいになっていた私を、ある夜、友達が半ば強引にランニングに連れ出してくれた。20分のランニングをする時間も惜しいと思っていたが、走った直後の空気は澄んでいて、忘れかけていた、丘の上だからこそ見られる満点の星空や校舎の美しさに改めて気付かされた。
ホストファミリー、house mistress、他の寮生と話す時に毎回感じるのはイギリスの「生活を楽しむ文化」だ。アフタヌーンティーは有名すぎるほどよく知られているが、イギリス人は実によく散歩をする。ホストファミリーと散歩中に行ったクリスマスリース作りは特に印象深い。勉強だけでなく、散歩や趣味の時間を大切にする暮らしの中で学ぶことも多かった。やるべきことが多く心に余裕がない時、休憩をとることには勇気がいる。一見無駄に思える散歩、ランニング、そして一杯の温かな紅茶を飲む時間を作ることは、心と体をリフレッシュし、実際、能率をあげることにつながる。忙しい日々は続くが、これからも丁寧に生活していくことを心がけたい。

学校ではコロナ対策としてone way system(学校の敷地内はすべて一方通行で、すれ違わないようにされていたシステム)や、year group bubbleという考え方が取り入れられ、同じ学年ではない生徒との接触が最小限になるよう工夫されていた。とはいえ、コロナ対策に関する考え方は人それぞれで、マスク文化や手をこまめに洗う日本の習慣との違いを感じる場面が多かった。そんな中、印象的だったのは異なる考えに寄り添おうとしてくれるイギリス人の姿勢だった。普段マスクを付けなくても良い場所(教室内や寮の中)で外す人が多い中、アジア人が感染に対してより大きな警戒心を持っていることを知っている友達は、私たちと一緒の場にいるときにはマスクをつけて過ごすように気を使ってくれた。
バックグラウンドが異なる中、お互いが気持ちよく過ごせるようにとの配慮がとても嬉しかった。11月の二度目のロックダウン中には、寮生としての生活が大きく制限された。学校行事がほとんど中止となった他、タウンへの外出ができなくなったため、私の寮では毎週土曜日に寮生全員で夕食を作りテーブルを囲むイベントを企画した。
コロナ禍でそれぞれを取り巻く状況は全く違う。周りの友達が香港に帰国する中一人イギリスに残る決断をした友人、大事にしていた飼い猫が病気になる中家に帰ることができず最期に立ち会えなかった友人など、各々心に重しがのっているような日々が続いた。そんな中、皆で食事をとる時間は、それぞれの大きな心の支えとなっていた。いろいろな場面で例年とは全く異なる学校生活だったが、人と関わり合い、助け合えることの素晴らしさを再確認することができた。
できない理由を探すことは容易い。コロナ禍で移動や機会が制限された中では、実際、できなくなってしまったことも多かった。だが、困難の中にあるからこそ、様々なことにアンテナを張りチャンスを生み出す事が成長につながる。パンデミックで受けたダメージは大きいが、それ以上に学んだことも大きかった。

学習面では、インタビューの準備を進める中で興味のある教科についての理解を深めることができた。特に学校内のeconomics societyでのプレゼンテーション、”How to fix the world”に向けての準備とプレゼン後のディスカッションは、自分のやりたいことを見つめなおす大きな転換点となった。
プレゼンテーションでは、夏休みごろからSDGs (sustainable development goals)に興味を持っていたこともあり、政治、経済、社会学を軸に今起こっている問題の原因は何か、改善するにはどうしたら良いかについて私なりの考えをまとめ、発表した。具体的には、Brexitやトランプ大統領の選挙戦での攻防に顕著に現れていた人々の分断を切り口に、利潤の追求を図るSNSの問題点、それを統制する術としての政府の介入や消費者の選択(ethical consumerism)の可能性、そして企業や世界全体が利潤の追求だけでなく「持続可能性」というものさしを加えた目標設定を行うことの必要性について語った。
このプレゼンテーションを通し、私のやりたいことは政治、経済、社会学などを使い、持続可能性を追求する手助けをすることだと強く感じるようになった。プレゼンテーションで取り上げた問題は、今世界各地で起こっている問題のうちの一部でしかない。もっと様々なことを貪欲に学び、視野を広げることは、複雑に絡み合った問題の関係性を解きほぐして解決策を考える助けになるだろう。イギリスで様々な国籍の人と関わり合える貴重な機会を大切に、これからも常にアンテナをはり、色々なことを吸収するよう心がけていきたい。

コロナウイルスの感染再拡大など不安な日々が続く中、たくさんのサポートをしてくださったTazaki財団の皆さん、ありがとうございました。残り半年となったKingswood schoolでの生活も前向きに歩んでいきます。