お知らせ

Sさん(University of Cambridge, Music / Christ's Hospital 出身)

日本での長い夏休みを満喫後、9月末に渡英しUniversity of CambridgeのClare Collegeで新生活を始めました。

さて、大学で学問として音楽を専攻するという、日本にいた頃は考えもしなかったようなことをしているわけですが、実際に何を学ぶのか、コースがどう構成されているかを少し説明したいと思います。

一年目は、様々なバックグラウンドから来る生徒達の知識の基盤を揃えるために幅広い分野をカバーする5つの必修科目があります。それに加え、4つの選択肢から2科目を選択し、合計7科目履修することになります。各科目に対してlectureとsupervisionが毎週または2週間に一度あります。

Paper 1: Music in Contemporary Societies
これは正直私が最も難しいと感じている科目です。よく学校で教えられるようなクラシック西洋音楽ではカバーされない、アジアやアフリカ等世界の音楽や現代音楽の歴史や特徴、またそれらに付随する社会問題について学びます。扱う分野がとにかく多岐に及ぶため、授業前に読まなければならない文献の量が多く、毎週テーマが変わっていくため、ついていくだけで必死でした。

Paper 2: Western Music History I
今までやってきたような音楽史かなと思っていたら、求められる専門性の度合いが全く違いました。複数の文献を読んでインプット、lectureで理解を深め、supervisionで出されるエッセイで自分の意見をアウトプット。今学期学んだ中世・ルネッサンス音楽は今まで触れる機会が無かった分野だけに、歴史的背景を理解した上で、自分で批評するところまでたどり着くのは苦労しました。初めて書いたエッセイは、読み返したくないほど悲惨でしたが、回を重ねるごとにより良い構成の仕方、文献の探し方がわかってきたように思います。

Paper 3: Music Analysis I
A levelと大学の差を最も感じた科目です。今学期はソナタ形式を中心にいくつかの課題曲の構成や調性を分析したのですが、その際用いなくてはならない膨大な量の専門用語があり、それらを理解し覚えるのにたくさんの時間を要しました。

Paper 4: Tonal Skills I
対位法を基にフーガを書いたり、ハイドンのスタイルで弦楽四重奏を作曲したり、歌の伴奏を書いたり、とてもクリエイティブな科目です。よしこれで完璧だろうと思って課題を提出しても、毎回supervisorの先生が改善点を見つけてくれるため、とても勉強になります。

Paper 5: General Musicianship
初見で旋律の和声付け、複雑なリズム読み、移調、聴音、指揮等、音楽家に必要な実践的スキルを養います。過去にどのくらいの経験があるかにかなり左右されるため、授業初日にクラス分けテストが行われました。

追加の2科目に関しては、私はPerformanceとExtended Essayを取っています。Extended Essayではフランス音楽におけるジャポニスムについて研究しており、日本語と英語で書かれた文献両方を当たることによって発見できる視点もあり、興味深いです。その他にも作曲等の選択肢があり、皆自分の興味に合わせて組み合わせています。2年目以降はさらに選択できる科目が増え、どの分野にスペシャライズしようか今から楽しみです。

以上が私の学部のコースとしてやっていることですが、実は大学生活が始まってからそれと同等に力を入れているのが、課外活動としての演奏です。大学全体で音楽活動は目を見張るほど活発に行われており、ソロや室内楽、オーケストラのコンサートはもちろんのこと、ミュージカルやオペラに至るまで盛りだくさん。学期初めに行われたオーディションで大学全体のオーケストラのコンミスに選ばれたことにより、学部関わらず様々な出会いがあり、リハーサルの無い日の方が珍しいほど、たくさんのプロジェクトに携わることができました。
特に、5日間の大変な集中練習の後、満員のホールでブラームスの交響曲を演奏したコンサートは記憶に残っています。また、私が日本ではあまり演奏する機会のなかったような近現代の曲を積極的にプログラムに取り入れようとする姿勢にも驚きました。どのコンサートも完全に生徒主体で行われているとは思えないほどの質・熱量で、皆が自分の専攻だけではなく夢中になって音楽に打ち込める環境にあること、またそのような素晴らしい人達に囲まれていること、本当に嬉しく思います

しかし、引き受けすぎで、4日連続で本番がある一方、学部の課題や個人の練習等とのバランスが取りきれず眠る時間すら取れない日々が続いたこともありました。入学初日のディナーの席で、Collegeの学部代表の教授に言われたことを思い出します。「人に頼まれ感謝されることはとても嬉しいことだけれど、時にはNoと言わなければいけないこともあるし、そうやって自分をどう管理し労わるかが、この忙しいCambridgeでの3年間で一番学んでほしいことだ。」既に一杯な状況でさらに事を引き受けることは、一つ一つの質を低下させることにも繋がるし、自分の限界を知るということも一つの成長なのだと思います。これからはより良いバランスが取れるよう努めます。

寮での共同生活ですが、パンデミックにより大きく制限されていたパブリックスクールでの日々と比べ、格段に自由で楽しい時を過ごしています。一緒に住んでいるのは全員同学年で、同じ学部の人4人に加え他学部10人、またその中でClare Choirに入っている人が6人と、とてもmusicalなメンバーでもあります。CambridgeではChristmas一ヶ月前の11月25日をBridgemasとしているのですが、皆で部屋を飾り付けプレゼントやディナーを準備したり、クリスマスキャロルを初見で(しっかりと4声に分かれ)歌ったりして、遅くまで祝ったことはとても良い思い出です。半分ほどが同時に新型コロナに感染したこともありましたが、キッチンの使用や買い出し等協力して乗り越えました。課題でストレスの溜まる時も、少し部屋の外に出れば一緒にご飯を食べ一息入れられる仲間がいること、その大切さを感じています。

毎日忙しくも大変充実し、順調な滑り出しを切った大学生活。これからも初心を忘れずに乗り切っていきます。