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Sさん(女生徒)国立筑波大学附属高等学校出身

 想像さえつかなかった、スコットランドでの新しい生活。初めての寮生活、新しい食文化と今まで育ってきた環境 が全く違う人々。クリスマス休暇を迎え、課題に追われる日常からの束の間の休息を得て、このAutumn Termを振 り返ってみると、渡英前に覚悟していた程の事態は実際には生じていない、むしろ以前は不安要素だと考えてい たことも、数カ月過ごすうちにそれらは些細な問題だったと気づくことも多かった。もちろんすべてが順調に進んだ わけではなかった。なかなか会話に入れなかったり、周りの人が何に対して盛り上がっているのか理解できなかっ たり、自分の実力不足に落胆し、心が折れる日々もあった。特に最初の1か月は、今までに経験したことのない類 の疲労感を抱いたが、徐々にこの環境をしっかり受け入れて、楽しいと思える回数が増えてきたと感じる。このよう に前向きに捉えることができたのも、やはり周囲の人々の影響が大きいと思う。特に、友人関係で今のところほぼ 全く苦労していないことは、かなりこの留学生活を送るうえで助けになった。現在のルームメイトでもあるスコットラン ド人の友人とは、入学当初からずっと仲良くしてきた。彼女も今年から新しくFettesに入学した同学年の子なのだ が、持ち前の明るさとコミュニケーション力を生かし、寮や学年の枠を超えてどんどん友達を増やしていく。そのた め私も自然と新しい人と知り合うことができた。日曜日に部屋に閉じこもっている私に対しては、気分転換も必要だ から散歩に行こうと外に連れ出してくれたり、たわいもない会話をしたりと、気を遣わずに常に一緒にいられる友達 の存在は心の支えとなっている。
   三週間に一度ある休みの期間は、イタリア人の老夫婦のホストファミリーと一緒に過ごしている。日本にいる祖父 母の家に訪れるような感覚になる、とても落ち着く場所だ。食卓では、故郷のワイン作りやお祭り、スコットランドに 来た経緯などをユーモアたっぷりに話してくれる。異国で生活していても自分たちのバックグラウンドを大切にしよ うという姿勢には強く惹かれた。クリスマスや新年は親戚の家に集まり食事をする。家族でもない日本人がそんな 場所に参加するのは少し躊躇さえしたが、皆暖かく迎え入れてくれた。日本旅行に行った時の話、日本の食べ物 や文化の質問を積極的にしてくれて、私が会話の輪に入れるように気遣ってくれたのだと思う。イタリアから家族で 移住し、スコットランドで1から新しい生活の基盤を築こうとすると、私には想像もつかない試練があったのだろう。 だからこそ、同じイタリア人のコミュニティや家族間のつながりが強く、遠い親戚とも仲良く食卓を囲み、お互い支 え合っていた。ホストファミリーとの信頼関係を築くことができ、日本の家族には会えないが、休みの日には心が落 ち着く場所に帰れることに本当に感謝したい。
   このように人と環境に恵まれたため、勉学にも前向きに取り組めたのだと思う。私は数学、発展数学、経済、物理 を選択していて、どの教科も楽しめている。数学では、日本では学習しないような内容も学ぶが、しっかり問題傾 向を把握して練習を重ね、テストでは満点もとれるようになった。また、アクティビティとして数学や物理のSocietyに も入った。数学に関しては、日本では義務的に勉強していたことも多かったが、今では、Societyで扱う少し発展的 な問題も周りの人と楽しんで解いていて、自分でも少々驚いている。グループ活動でいくつかの問題を正解し貢 献できたり、Math Challengeで結果を残せたりしたことも自信につながったと感じる。経済では、クラスの大半が2 年間すでにGCSE で学習していたため、知識量で他より劣っていると感じていた。エッセイでは、今まで学んでき た知識同士をつなぎ合わせ、取りこぼしのないよう順序立てて文を構成する必要があった。まだまだインプットとア ウトプットが足りていないと自覚していたため、冬休みは先輩からいただいたノートも活用し、経済を重点的に学習 を進めた。唯一自信があまりなかった教科だったが、Reportでは努力が評価されて、勉強のモチベーションにも なった。
 日本を発ち、今まで歩んできた道から曲がり角を曲がり、未知だった世界が徐々に既知へと変化していった4か 月間。想像していたよりも緩やかな道に安堵し、歩みを加速させられたこともあれば、その先に見えた一筋縄では いかない険しい道に、歩みを止めたくなることもあった。そんな時に、House mistress、Tutor、数学の先生、そして 友達に共通してかけてもらった言葉は“Be kind to yourself”だった。すべてが思い描いていたように進まなかった としても、それを許す寛容さを自分に持ち、失敗を生かして次に進みなさいというアドバイスとも受け取れるだろう。 この4カ月は、周囲の人や環境に何度も圧倒され、自分の弱点や力不足が多く明らかになった期間だった。しか し、そんな不完全な自分も受け入れて、前に進むという精神を身に着けたからこそ、この新しい生活も何とか楽し めるようになった。次のTermでは、この恵まれた環境を最大限生かし、学業面でさらなる成長を目指し、努力を重 ねていきたい。
 最後になりましたが、このような貴重な体験をすることができたのは、田崎理事長をはじめとする財団からのご支 援があったからです。本当に感謝しております。